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歌詞とその曲

2023年09月15日

うたという言葉が示すように、詩と音楽は上古以来今日までさまざまに結合され、ことに我国の音楽では声楽が断然器楽に優先し、楽器を主体とする曲や、リズムを強調する舞踊音楽にまで、歌のついているのが多い。この傾向は洋楽が入ってからも依然続いており、我国の音楽の進路に重要な意味を持っている。今日ではちょっとした歌曲でも作詞と作曲は別人であり、通例詩が先にできていて、作曲者がそれを歌詞として作曲するのである、近頃は初めから作曲を予想した歌詞もあるが、それはむしろ例外で、通例詩作の際それが作曲される場合のことはあまり念頭におかず、ただ読む詩、あるいはせいぜい朗誦するものとして作られ、作曲者はそれらのうちから撰んで、音楽と言う別の約束を持つものを結合し、詩情にそいながら新しい別境を作るのである。その結果が詩人を喜ばせることもあり、迷惑がらせることもあろう。作曲者が極めて優れていても、そのやり方が詩人の好みに合わないとか、作曲者の気持ちが出すぎてうるさがられることもある。ベートーベンはゲーテの詩に作曲したが、ゲーテはモツアルトのような音楽が好きで、ベートーベンの薬の強いやり方より、むしろ当時の二流音楽家の素直な朗吟に近い曲を喜んだそうである。同じ詩につけても歌曲はいろいろな姿になる。作曲者が誰でも作りたくなるような名詩には、昔から多くの一流作曲家が曲をつけているが、長い間にはその一つか二つだけが生き残るのである。一つの歌詞にいかに色々な曲がつけ得られるかの極端な例をあげれば、戦時「愛国行進曲」の曲を公募した時、小学生から専門家まで数万の曲が集まり、最後に残ったのがあの瀬戸口楽長の曲であった。

信時潔「歌詞とその曲」『心』昭和三十九年一月号より
https://www.aozora.gr.jp/cards/001963/card58853.html

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