貸借対照表について
貸借対照表(B/S)は企業の財務状況を表す財務諸表です。損益計算書が一年間の経済活動を表すのに対して、貸借対照表は決算時の経営の安定度を表す指標です。
決算時の数値であるため年度表記の次の年の財務状況になります。例えば1月決算の場合、2020年度決算の貸借対照表は翌年2021年1月末時点の財務状況です。年度表記と1年ズレが生じるため読解には注意が必要です。
貸借対照表の見方
プロスポーツクラブの貸借対照表の最も単純な見方は、純資産額(純資産の部)を見ることです。純資産額が大きいほど経営が安定したクラブと言えます。
反対に、負債が資産を上回り、純資産がマイナスになっている状態を債務超過と言います。Jリーグはクラブライセンス制度によってJクラブの債務超過を原則禁止しています。
また資本金の増減にも注目してみるといいでしょう。資本金の変化は増資や減資などが年度内に実施されたことを意味します。増資による株主構成の変化はクラブの経営体制に影響を与えます。全てのJクラブが株主構成を公表しているわけではありませんが、当該年度のプレスリリースやニュースなどと照らし合わせてクラブの経営体制の変化を考察してみるのも面白いでしょう。
Jリーグが発表する経営情報はあくまで一事業年度ごとの決算情報です。この情報だけでは資金繰りなどより短期的な経営状態まで は追うことができないので、その点を留意してください。
貸借対照表の項目
貸借対照表の各項目について説明します。
Jクラブ個別経営情報開示資料を読むための簡易な説明となりますので、各項目について詳しく知りたい方は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第二章 貸借対照表をご覧ください。
借方
貸方
流動資産
固定資産等
流動負債
固定負債
資本金
資本剰余金等
利益剰余金
資産の部は借方、負債の部と純資産の部は貸方です。借方と貸方の値は一致していなければいけないので、負債の部が資産の部を上回っているとき、純資産の部はマイナスの値になります。この状況を債務超過と言います。
総資産(資産の部)
総資産(資産の部)は企業の所有物の経済的価値の合計です。
流動資産と固定資産等に分類されます。
流動資産
流動資産は企業が所有する1年以内に現金化できる資産の価値の合計です。
現金及び預金、売掛金、商品、貯蔵品、前払費用、未収入金など。
固定資産等
固定資産等は企業が所有し継続的に使用する資産の価値の合計です。
有形固定資産 (建物、構築物、車両運搬具、工具器具及び備品)
無形固定資産 (借地権、選手登録権、商標権、ソフトウェア、電話加入金など)
投資その他の資産 (出資金、長期前払費用、敷金保証金など)
プロスポーツクラブ特有の会計処理として、移籍金を払って獲得した選手を登録する権利を無形固定資産に計上する例が挙げられます。
例として2020年の冬に移籍金1億円で獲得した選手と5年契約を結ぶ場合を想定します。このとき20年度決算(21年1月期)では選手登録権を取得原価の1億円で無形固定資産として計上します。このとき移籍金の払込が完了していれば流動資産(現金・預金)が1億円減り、完了していなければ流動負債(未払金)が1億円増えます(分割払いの場合も同様)。移籍金はこの時点では費用として計上していません。
選手登録権は選手の契約年数で減価償却費として費用計上します。この場合は2021シーズンからの2025シーズンまでの5年契約なので、21年度から25年度まで2000万円ずつ移籍関連費用として計上することになります。無形固定資産として計上している選手登録権は1年ごとに2000万円ずつ減価していき、契約満期の5年後にゼロになります。
総負債 (負債の部)
総負債(負債の部)は企業が借りている経済的価値の合計です。
流動負債と固定負債に分類されます。
流動負債
流動負債は1年以内に支払い期日が到来する負債です。
買掛金、短期借入金、1年以内返済予定長期借入金、未払金、未払費用、未払法人税等、前受金、預り金、前受収益など
固定負債
社債、長期借入金、退職給付引当金など
純資産 (純資産の部)
純資産額(純資産の部)は総資産(資産の部)から総負債(負債の部)を引いた値です。また、その内訳である資本金、資本剰余金等、利益剰余金の合計と一致します。
後述するように、資本金及び資本剰余金等は年度内に増資(資本金を増やす)や減資(資本金を減らす)をしない限り一定です。したがって、純資産額の増減は基本的に、利益剰余金の増減、つまり当期純利益と一致します。
純資産がマイナスの状態を債務超過と言います。債務超過は総負債が総資産を上回る、つまり企業が持つ全ての資産を売却しても債務を返せない状態です。
Jリーグのクラブライセンス制度の財務基準では通常、債務超過に陥ったJクラブにはJリーグクラブライセンスが交付されません。
クラブライセンス制度は2012年度に施行されました。財務基準における「債務超過の禁止」は2014年6月に申請する2015シーズンクラブライセンス判定から審査の対象になりました。このことはJクラブは2014年度以降の決算で債務超過であってはいけないということを意味します。
2013年度決算ではJ1・J2合わせて12クラブが債務超過の状態でしたが、2014年度決算では債務超過のクラブはJ1・J2で0クラブ(判定対象外のJ3で2クラブ)になり、J3ライセンスでも債務超過の禁止が適用された2015年度以降はJ1からJ3までのすべてのクラブが債務超過を解消しました。
資本金
資本金は株式会社の元本となる会計上の金額です。基本的には一定ですが、年度内に資本金を増やす増資や、資本金を減らす減資が行われた場合に数値が変動します。
出資を受ける企業は、出資者に対し、出資額に応じた株式を発行します。出資者の保有する株式はその企業の取締役会の議決権となります。取締役や役員の選任・解任は議決権の過半数で決定できるため、企業の発行済株式の過半数を所有する(または過半数を持たなくても支配的な立場にある)出資者を、企業の場合は親会社、個人の場合はオーナーと言います。
クラブライセンス制度の財務基準では債務超過が認められていないため、債務超過回避の手段として増資が行われる例が散見されます。
資本剰余金等
資本剰余金等は、資本準備金とその他資本剰余金(資本準備金及び法律で定める準備金で資本準備金に準ずるもの以外の資本剰余金をいう。)の合計です。この項目はほとんど資本準備金と同義と見なしていいでしょう。
資本金と同様、基本的には一定の数値であり、年度内に増資や減資が行われた場合のみ変動します。
増資を実施する際に、払込金額の1/2を上限として資本準備金に充てることができます。(会社法445条)
また、減資を実施する際に、資本金の減少額を資本準備金に振り替えることが可能です。
利益剰余金
利益剰余金は過去の当期純利益の総和です。この値がマイナスのときは累積赤字と表記されることもあります。原則、当年度の利益剰余金は、前年度利益剰余金に当年度の当期純利益を加えた値になります。
この値が一致しない場合、年度内の減資で資本金を利益剰余金に振り替え、累積赤字の解消を行ったことが推測されます。減資による資本金の利益剰余金への振り替えは、利益剰余金がマイナスの場合のみ、振り替え後の利益剰余金は0を上限として認められます。
参考
[札幌] 決算情報: 内訳を詳細に記述した有価証券報告書を掲載
[名古屋] 減資及び第三者割当増資完了のお知らせ (2016/06/15)
[浦和] 第三者割当増資に伴う、発行済株式数並びに株主数変更のお知らせ (2017/01/26)
[サイバーエージェント] FC町田ゼルビアを運営する株式会社ゼルビアの第三者割当増資引受(子会社化)に関するお知らせ (2018/10/01)
[J公式] 規約・規程
[e-Gov法令検索] 会社法
[e-Gov法令検索] 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
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