コロナ禍及び均等配分金減額による特例措置
2020年に始まった新型コロナウイルスの流行はJクラブの経営に大きな打撃を与えました。
2020年度のJ1クラブの営業収入は平均11.15億円の減少、前年比約77%となる大幅に減収しています。特に無観客開催、上限5000人の入場制限があったことで、入場料収入はJ1クラブ平均で6.2億円の減少、前年度の1/3を下回る大幅な減収となりました。
Jリーグは2020年4月に2020年のライセンス判定(2021シーズンのクラブライセンス)において3期連続赤字および債務超過を判定対象外とすることを発表し、2020年10月には2021年から2024年までのライセンス判定に適用される財務基準の特例措置及び猶予期間の詳細を発表しています。
特例措置と猶予期間
新たに債務超過になることが許される特例措置と、債務超過解消に取り組む猶予期間の2つの段階が設けられています。
特例措置
- 債務超過、3期連続赤字をライセンス交付の判定対象としない
- 対象年度に新たに債務超過に陥っても判定対象としない
猶予期間
- 債務超過が解消されていなくてもよいが、前年度より債務超過額が増加してはいけない
- 新たに債務超過に陥ってはいけない
- 3期連続赤字のカウントをスタートする
猶予期間の基準を満たせない場合、J1・J2所属クラブは下位カテゴリへの降格、J3所属クラブは勝点10減の制裁が下されることが2021年10月に決まっています。
特例措置なし
- 債務超過が解消されていなければならない
- 赤字が継続しているクラブは、3期連続赤字に抵触する可能性がある
スケジュールの変更
2020年10月に策定したスケジュールでは、2020年度、2021年度決算を特例措置の対象、2022年度、2023年度決算を猶予期間の対象とし、2024年度以降は特例措置なしと設定していました。
しかしながら2023年シーズンの均等配分金の減額の決定を受け、2023年度決算を特例措置、2024年度の1年間を猶予期間、2025年度以降を特例措置なしとする新たなスケジュールが設定されました。
(旧) 特例措置と猶予期間
2020年度決算 | 2021年度決算 | 2022年度決算 | 2023年度決算 | 2024年度決算 | 2025年度決算 |
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特例措置 | 猶予期間 | 特例措置なし | |||
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2021年1月1日改正
(新) 特例措置と猶予期間
2020年度決算 | 2021年度決算 | 2022年度決算 | 2023年度決算 | 2024年度決算 | 2025年度決算 | 2026年度決算 |
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特例措置 | 猶予期間(*) | 特例措置 | 猶予期間 | 特例措置なし | ||
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2023年1月1日改正
原文
特例措置及び猶予期間の内容を、2024年版のJ1・J2クラブライセンス交付規則の原文で確認します。
F.01 年次財務諸表(監査済み) A等級
3.判定
(2) 提出された財務諸表に基づいて審査を行い、以下のいずれかに該当する場合は基準F.01を満たさないものとする。
① 3期以上連続で当期純損失を計上した場合(ただし、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在の純資産残高がライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度の当期純損失の額の絶対値を上回っている場合は本項目に該当しないものとみなす)。なお、本項目は、2027年のライセンス申請において2024年度決算を1期目として適用を開始するものとし、2026年までのライセンス申請においては適用しない。
② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。本項目は、2026年のライセンス申請から適用するものとし、2025年までのライセンス申請においては適用しない。また、2025年までのライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。
J1・J2クラブライセンス交付規則・運用細則 2024年版
3期連続赤字の禁止
なお、本項目は、2027年のライセンス申請において2024年度決算を1期目として適用を開始するものとし、2026年までのライセンス申請においては適用しない。
まず1番目の「3期連続赤字の禁止」における特例措置と猶予期間の確認です。
「2024年度決算を1期目として適用を開始する」ということは、2023年度決算は対象外となるため特例措置に該当します。カウントが始まる2024年度決算は猶予期間に該当します。2025年度決算はカウントが3期に満たないため判定対象外、2024年度決算から数えて3期目となる2026年度決算までを対象とする2027年のライセンス申請(2028シーズンのクラブライセンス)において再び適用されます。
債務超過の禁止
本項目は、2026年のライセンス申請から適用するものとし、2025年までのライセンス申請においては適用しない。また、2025年までのライセンス申請においては、 ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。
次に「債務超過の禁止」における特例措置と猶予期間の確認です。
「本項目は、2026年のライセンス申請から適用するものとし、2025年までのライセンス申請においては適用しない。」という部分は特例措置に関する規定です。
「また、2025年までのライセンス申請においては、〜」という文章は猶予期間の「新たに債務超過になってはいけない」「債務超過額が増加してはいけない」に該当する部分です。
2025年のライセンス申請(2026年シーズンのライセンス)の場合、それぞれ対応する年度は以下の通りです。
- ライセンスを申請した日の属する事業年度: 2025年度
- ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度: 2024年度
- さらにその前年度末日: 2023年度
したがって、2024年度決算で債務超過であっても、2023年度で既に債務超過であって、2024年度決算の債務超過額が2023年度の債務超過額と同額か減少しているときは該当しない(ライセンスは交付される)、という意味になります。
基準未充足となった場合の取扱い
2021年10月に財務基準未充足となった場合の取扱いが発表されています。「3期連続赤字の禁止」「債務超過の禁止」はA等級基準であるため、通常時であれば基準未充足の場合J1・J2・J3クラブライセンスは交付されませんが、このプレスリリースでは基準未充足の場合「J1・J2クラブは次シーズン下位リーグ所属」「J3クラブは次シーズン勝点10点減」となると発表されています。
■ 基準未充足となった場合の取扱い
上記の財務基準未充足となった場合には、J1・J2クラブは次シーズン下位リーグ所属、J3クラブは次シーズン勝点10点減とする。
財務基準の特例措置に関する時系列
2020年4月
新型コロナウイルスの影響を考慮して、2020年のライセンス判定(2021年シーズンのクラブライセンス)において、3期連続赤字および債務超過を判定対象外とすることを決定。
2020年10月
2020年度決算、2021年度決算を特例措置、2022年度決算、2023年度決算を猶予期間とするスケジュールを発表。
2021年10月
猶予期間中の「基準未充足となった場合の取扱い」を発表。
2022年6月
「特例措置延長の必要性はない」ことを発表。
2023年1月
2023年版のクラブライセンス交付規則が、2023年度決算を特例措置の対象、2024年度決算を猶予期間の対象とする内容に改正。
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