プロスポーツクラブ経営の行動原理
プロスポーツクラブは利益を出すことを目的としていません。何故でしょうか。プロスポーツクラブは利益を競っているわけではないからです。収入が大きくなればその分だけトップチームの強化や育成・普及に使いたい。より良い選手を獲得したい。アカデミーに投資したい。このように収入を出来るだけ競技面に投資したいというのがプロスポーツクラブの一般的な考え方です。
株式会社という名において、一般企業とプロクラブの存在は似ていますが、明確に違う点として、前者は利益を出すことが目的であるのに対し、後者はスポンサー、入場料、募金等で頂戴した運営費を余すことなくチーム強化に使うことが目的の一つだと我々は考えています。
つまりプロスポーツクラブの経営は、単に当期純利 益の大小で測れるものではなく、競技力やその他様々な事項を考慮した上で評価しなければなりません。クラブが戦略的に赤字予算を組むこともありますし、逆に単年で多額の黒字を出したとしてもトップチームが下位カテゴリに降格してしまうようであれば、それは収入をトップチーム強化に上手く反映できなかった経営の「失敗」と評価できるでしょう。
前項の当期純利益の項目で述べた通り、債務超過のクラブにはJリーグクラブライセンスは交付されないため、まず第一にJクラブは債務超過になることを絶対に避けなければなりません。一方でクラブが債務超過寸前という状況でないのであれば、特に目的なく多額の黒字を出すよりは、多少の赤字になったとしても収支が均衡するように強化や育成に投資する経営が理想とされます。勿論単年黒字に越したことはないのですが、黒字は善、赤字は悪という単純化した見方をしてはいけません。
──その一方で経営面を見ると、今年の4月に「4期連続の黒字」というニュースがありました。この点については、いかがでしょうか。
木村 ここはライターの皆さんに意識していただきたいのですが、黒字はまったく関係ありません。むしろ黒字が何年も続いたら怒られなければいけない。
──と言いますと?
木村 黒字というのは「経営の安定」ということ以上に「税金を払う」という意味があって、それは必ずしもファンやサポーターの皆さんが望んでいることではないということです。地域のプロスポーツクラブというものは、地域の皆さまからのお金で成り立っているわけです。これはあまり言っちゃいけないことですが、債務超過にならない範囲で黒字と赤字を繰り返しながら、皆さまから頂いたお金は税金を払うよりも余さずチーム強化費にまわす、ということがわれわれに求められることです。
これが地元自治体への税金なら話は全く違いますが、クラブの法人税は国に支払われます。例えば、われわれは現在12億円の収入ですが、黒字にして3000万円の法人税を払うのなら「そのお金で点取り屋を獲得してよ」とファンは思うのではないでしょうか。もちろん、債務超過は論外ですが。
前項で述べた通り、営業収入の大きさこそプロスポーツクラブの地力と言えます。クラブの収入が大きくなることで、トップチームの強化やアカデミー・育成普及など競技面への投資が可能になり ます。どのJクラブもクラブの売上を増やして、クラブの規模を大きくするために力を尽くしています。
参考
[J公式] 2018年度 クラブ経営情報開示(先行発表) メディア説明会 発言録 (2019/05/28): 記者の質問に対し「単年度の赤字、黒字だけで経営を判断するのは少々乱暴かなと思っています」と回答
[J公式] 2019年度 クラブ経営情報開示(先行発表) メディア説明会 発言録 (2020/05/29): 「赤字が必ずしも悪いことではない」と解説
[J公式] 2019年度 クラブ経営情報開示 メディア説明会 発言録 (2020/08/03): 同上
[岡山] 2013年度 経営状況についてのご報告 (2014/04/24): 同様にプロスポーツクラブ経営の考え方を端的に説明
[Yahoo!ニュース] ファジアーノ岡山の木村正明代表が語る「J1昇格」よりも大切なこと<1/2>=宇都宮徹壱WMより転載: 「黒字が何年も続いたら怒られなければいけない」と説明
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