「基準未充足の取扱いについて」はどのように施行されるか

2022年08月06日

「基準未充足の取扱いについて」はどのように施行されるか

2021年10月26日にJリーグが発表した「2022年度以降のクラブライセンス判定における財務基準について」には、猶予期間中の財務基準が未充足だった場合の取扱いについて以下のように記されています。

■ 基準未充足となった場合の取扱い

上記の財務基準未充足となった場合には、J1・J2クラブは次シーズン下位リーグ所属、J3クラブは次シーズン勝点10点減とする。

2022年度以降のクラブライセンス判定における財務基準について (2021年10月26日)
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下位リーグ降格、勝点減と明記されたこの取扱いはどんな規則を根拠に施行されるでしょうか。結論を先に言うと、クラブライセンス制度のB等級基準の未充足による制裁という形で施行されると考えています。

2023年のライセンス申請(2024年シーズンのクラブライセンス)なので先の話ですが、このことを従来の財務基準未充足の場合と比較して考察します。

従来の財務基準が未充足の場合

最初に従来の財務基準が未充足の場合をおさらいします。
従来の財務基準とはここでは「債務超過の禁止」と「3期連続赤字の禁止(※J1ライセンスのみ例外あり)」のことを指します。クラブライセンス審査において、クラブの前年度の決算がこのどちらかに抵触した場合(財務基準F.01)、または当年度末の決算でどちらかに抵触することが確実に見込まれる場合(財務基準F.05)、次のシーズンのJ1・J2・J3クラブライセンスは交付されません

クラブライセンス不交付となる根拠は、J1・J2・J3クラブライセンス交付規則においてこれらの財務基準がA等級であることです。A等級基準は未充足の場合ライセンスの交付拒絶事由を構成する項目です。したがって「債務超過の禁止」または「3期連続赤字の禁止」に抵触するとJ1・J2・J3のクラブライセンスは交付されません。

なおクラブライセンス不交付の場合、一般には「JFLに降格」と理解されていますが、Jリーグ規約では具体的な処置について定められておらず、「理事会で審議決定する」ことだけが記されています。

第7条〔審査上の基準と等級〕

(2) 前項の各ライセンス基準には以下の3つの等級に分けられ、各等級の定義はそれぞれ以下のとおりとする。

  • ① A等級
    A等級基準はライセンス申請者による達成が必須のものである。ライセンス申請者によるA等級基準の未充足は、当該ライセンス申請者へのJ1ライセンスの交付拒絶事由を構成するが、当該ライセンス申請者に対して本交付規則第8条に定める制裁は科されない。

J1クラブライセンス交付規則

第21条〔クラブライセンス不交付クラブ発生時の措置〕

J1クラブライセンス、J2クラブライセンスまたはJ3クラブライセンスの不交付または取消しが決定したJクラブが発生した場合、当該Jクラブに対する補欠等の処置については、理事会で審議決定する。

Jリーグ規約

規約・規程
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猶予期間中の財務基準が未充足だった場合

従来の財務基準が未充足の場合、J1・J2・J3のクラブライセンスが交付されないことを確認しました。
「基準未充足の取扱いについて」では、猶予期間中の財務基準が未充足の場合、J1・J2クラブは下位リーグに降格、J3クラブは勝点減と明記されています。これはどのように施行されるでしょうか。A等級基準未充足である場合はそもそもクラブライセンス不交付となってしまうため、従来の財務基準が未充足の場合と異なる根拠が必要になります。

先述の通り、B等級基準の未充足による制裁という形で施行されると考えています。猶予期間中の財務基準と、制裁の根拠となる条文を確認します。

猶予期間中の財務基準

2022年度と2023年度の2年間の決算が猶予期間の対象となります。したがって、来年2023年のライセンス判定(2024年シーズンのクラブライセンス)と再来年2024年のライセンス判定(2025年シーズンのクラブライセンス)で判定の対象となります。
猶予期間のライセンス判定では以下のルールが適用されます。

  • 債務超過が解消されていなくてもよいが、前年度より債務超過額が増加してはいけない
  • 新たに債務超過に陥ってはいけない

「基準未充足の取扱いについて」は猶予期間中に上記のルールに抵触した場合の措置であると考えられます。これらのルールがクラブライセンス交付規則でB等級基準として定義されることで、下位リーグへの降格や勝点減といったB等級基準の未充足による制裁が可能になります。

B等級基準

B等級基準未充足による制裁では下位リーグへの降格や勝点の減点が可能です。このことを交付規則から確認します。

第7条〔審査上の基準と等級〕

(2) 前項の各ライセンス基準には以下の3つの等級に分けられ、各等級の定義はそれぞれ以下のとおりとする。

  • ② B等級
    B等級基準はライセンス申請者による達成が必須のものである。ライセンス申請者によるB等級基準の未充足は、当該ライセンス申請者へのJ1ライセンスの交付拒絶事由を構成するものではないが、当該ライセンス申請者に対しては本交付規則第8条に定める制裁が科され得る

J1クラブライセンス交付規則

第8条〔J1クラブライセンス制度上の制裁〕

(1) ライセンシーまたはライセンス申請者にB等級基準の未充足があった場合、当該ライセンシーまたはライセンス申請者はFIBまたはABにより以下の制裁(ただし、当該制裁は網羅的なものではない)が科される可能性がある。ライセンシーまたはライセンス申請者は、シーズンの開始前のみならず、シーズン中にも、制裁が科されることがある。

  • ① クラブ名・スタジアム名の公表
  • ② 改善計画の提出
  • ③ 戒告
  • ④ けん責
  • ⑤ ライセンス基準を満たすための期限延長
  • ⑥ 特定の期限までにライセンス基準を満たす義務
  • ⑦ 罰金(1億円を上限とする)
  • ⑧ 勝点の減点(15点を上限とする)
  • ⑨ 人員の停職
  • ⑩ ライセンサーの然るべき機関への問題報告
  • ⑪ 保証および引受義務
  • ⑫ 補助金/賞金の保留
  • ⑬ より詳細な財務情報の要求
  • ⑭ 無観客試合
  • ⑮ 収容人数の削減
  • ⑯ J1ライセンスの見直し・取消し
  • ⑰ J1ライセンスの保留
  • ⑱ 移籍契約締結の禁止
  • ⑲ 下位リーグへの降格

J1クラブライセンス交付規則

なお、今までのクラブライセンス判定で実施されたB等級基準未充足による制裁は、スタジアムのトイレ不足(施設基準I.08)、屋根不足(施設基準I.09)による「① クラブ名・スタジアム名の公表」、「② 改善計画の提出」のみです。

「基準未充足となった場合の取扱い」に記された下位リーグへの降格、勝点減はB等級基準の未充足による制裁という形で可能であることを確認しました。

なお、現行のJ2・J3クラブライセンス交付規則に等級は存在しないため、上記の取扱いを施行できるように改正を行なうと思われます。

今年のクラブライセンス判定では?

現行の2022年版のクラブライセンス交付規則には、猶予期間中の財務基準は予告的に記載されているものの、2022年のライセンス申請においては判定の対象とならないことが明記されています。

② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。本項目は、2023年のライセンス申請から適用するものとし、2022年までのライセンス申請においては適用しない。また、2023年および2024年のライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。

J1クラブライセンス交付規則・運用細則 財務基準F.01

「基準未充足の取扱いについて」を施行するには、猶予期間に対応する規則をB等級基準として記載する必要があります。来年の交付規則の改正をもって、猶予期間中の財務基準は2023年のライセンス申請(2024年シーズンのクラブライセンス判定)から判定の対象となることが考えられます。

財務基準未充足から制裁までのタイムライン

2022年度決算において新たに債務超過に陥った場合、または債務超過額が増加してしまった場合の具体的なタイムラインを考察します。

規定通りに理解するならば、2022年度決算は2023年のライセンス申請(2024年シーズンのクラブライセンス)の対象となるため、2023年シーズンは従来通り2022年シーズンの成績を反映したカテゴリに所属することができます。

2023年5月末と7月末にJクラブの2022年度決算一覧が公表されます。ここで新たな債務超過化、あるいは債務超過額の増加が判明します。

2023年9月末のクラブライセンス判定で2024年シーズンのクラブライセンスとB等級基準未充足による制裁が発表されます。この時点で2024年シーズンの「下位リーグへの降格」または「勝点10点減」が確定します。

2024年シーズンの前に制裁が科されます。

ここは不明確な点ですが、仮に2023年シーズンの成績によって既に下位リーグに降格が決まっている場合は、J1→J3といった2段階の降格があり得るのでしょうか。逆に2023年シーズンの成績によって上位リーグに昇格が決まった場合は「昇格(成績)」→「降格(制裁)」のように昇降格を相殺する形になるのでしょうか。

制度面への興味は尽きませんが、制裁を科されるクラブが存在しないことが望ましいのは言うまでもありません。

  • 2022年12月末: 2022年度決算(7クラブ)
  • 2023年1月末: 2022年度決算
  • 2023年3月末: 2022年度決算(3クラブ)
  • 2023年5月末: 2022年度 Jクラブ経営情報(先行発表)開示
  • 2023年6月末: クラブライセンス申請締切
  • 2023年7月末: 2022年度 Jクラブ経営情報(正式版)開示
  • 2023年9月末: クラブライセンス判定とB等級基準未充足による制裁の発表
  • 2024年シーズン前: 制裁(下位リーグへの降格または勝点10減)

リンク

2022年度以降のクラブライセンス判定における財務基準について (2021年10月26日)
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クラブライセンス判定における財務基準について (2022年6月28日)
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規約・規程
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「基準未充足の取扱いについて」はどのように施行されるか

日付: 2022年08月06日

最終更新日: 2024年01月02日

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