2023年04月07日
2023年版のクラブライセンス交付規則の財務基準に間違い?
Jリーグクラブライセンス交付規則の2023年版が2023年1月に公開されました。2023年版では新型コロナウイルスの影響による財務基準の特例措置に関する 内容が改訂されています。この内容については以下の記事で紹介しています。
以上の記事を要約すると、2023年度決算は再び特例措置の対象に、2024年度決算は猶予期間の対象とするという内容です。この変更は昨年12月のJリーグの2022年度第4回社員総会及び実行委員会後の報道資料で公表されたもののようです。
※上記方針の変更により、柔軟なクラブ経営を可能とするため、23年度はクラブライセンスの財務基準を再度特例措置とし、猶予期間を24年度までに1年延長する(23年度:債務超過判定対象外、24年度:債務超過額増加と新規発生は不可・3期連続赤字1期目)
前述の記事ではその内容を2023年版の交付規則の原文で確認していますが、原文を改めて読み返してみた結果「債務超過の禁止」の部分に間違いがあるのではないか、と考えるようになりました。間違いと考える理由は改 正後の文面では実装しようとする内容を規則の文面から正確に理解することができないからです。
原文
まずは2023年版のJ1クラブライセンス交付規則・運用細則の原文を見てみましょう。
F.01 年次財務諸表(監査済み) A等級
3.判定
(2) 提出された財務諸表に基づいて審査を行い、以下のいずれかに該当する場合は基準F.01を満たさないものとする。
① 3期以上連続で当期純損失を計上した場合(ただし、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在の純資産残高がライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度の当期純損失の額の絶対値を上回っている場合は本項目に該当しないものとみなす)。なお、本項目は、2027年のライセンス申請において2024年度決算を1期目として適用を開始するものとし、2026年までのライセンス申請においては適用しない。
② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。本項目は、2026年のライセンス申請から適用するものとし、2025年までのライセンス申請においては適用しない。また、2025年までのライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しな いものとみなす。
第1号は「3期連続赤字の禁止」の規定、第2号が「債務超過の禁止」の規定です。
間違いと考える根拠
以下の文章は第2号「債務超過の禁止」の後半部分に行数を割り振ったものです。1は特例措置の内容、2は猶予期間の内容を示しています。
- 本項目は、2026年のライセンス申請から適用するものとし、2025年までのライセンス申請においては適用しない。
- また、2025年までのライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。
間違いは1、2の太字で強調した部分にあると考えています。というのも1の「2025年までのライセンス申請においては適用しない」と2の「2025年までのライセンス申請においては〜本項目に該当しないものとみなす。」は両立しないからです。2はプログラミング用語で言うところの到達不能コードになります。
この規則を2023年以降毎年のライセンス申請に対応させてみると以下の通りになり、猶予期間の内容を適用できる年度が存在しない ことになります。
- 2023年のライセンス申請 → 適用外 (特例措置)
- 2024年のライセンス申請 → 適用外 (特例措置)
- 2025年のライセンス申請 → 適用外 (特例措置)
- 2026年のライセンス申請 → 適用
2022年版の交付規則では
比較として2022年版のJ1クラブライセンス交付規則の内容を確認します。2022年版の交付規則では「債務超過の禁止」について、2022年までのライセンス申請では特例措置として適用外、2023年及び2024年のライセンス申請では猶予期間の内容を適用、と記されています。
- 本項目は、2023年のライセンス申請から適用するものとし、2022年までのライセンス申請においては適用しない。
- また、2023 年および2024年のライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。
2022年までのライセンス申請では特例措置として適用外、2023年、2024年のライセンス申請においては猶予期間の内容を適用、ということが示されています。
- 2022年のライセンス申請 → 適用外 (特例措置)
- 2023年のライセンス申請 → 適用・猶予期間
- 2024年のライセンス申請 → 適用・猶予期間
- 2025年のライセンス申請 → 適用
2022年版の交付規則の踏まえて改めて2023年版を読んでみると、猶予期間の内容が到達不能コードであることが理解できると思います。
以上のことから、「本項目は、2026年のライセンス申請から適用するものとし、2025年までのライセンス申請においては適用しない」の年号表記に間違いがあり、仮に間違いではないのであれば「また、2025年までのライセンス申請においては〜」という部分は意味を成さない文章であるため削除すべきである、と考えます。
読み取れること・読み取れないこと
読み取れること
では改正後の2023年版交付規則から読み取れることは何でしょうか。それは債務超過解消の期限が1年延長していること (2024年度決算→2025年度決算)です。そうでなければ改正を行なう必要がないからです。
読み取れないこと
一方で読み取ることができないのは、2022年度決算で新たに債務超過に陥った場合、債務超過額が増加した場合の取り扱いです。
2022年度決算は旧スケジュールであれば猶予期間の1年目であり、新たに債務超過に陥ること、債務超過額が増加することは認められていません。猶予期間における財務基準を充足できなかった場合、「J1・J2クラブは下位カテゴリに降格」「J3クラブは次シーズン勝点10減」という制裁が与えられますが、改正後の交付規則ではその制裁を実装する内容にはなっていません。
あるいは2023年度決算が再び特例措置の対象となったことに付随して、2023年のライセンス申請では2022年度決算も特例措置の対象として扱われるということも考えられます。個人的にはこちらの可能性が高いと思っています。
修正するなら
2022年度決算で新たに債務超過に陥ること、債務超過額が増加することを認める場合を想定すると、次のように修正できます。
本項目は、
2026年2025年のライセンス申請から適用するものとし、2025年2024年までのライセンス申請においては適用しない。また、2025年までの2025年のライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。
- 2023年のライセンス申請 → 適用外 (特例措置)
- 2024年のライセンス申請 → 適用外 (特例措置)
- 2025年のライセンス申請 →
適用外 (特例措置)適用・猶予期間 - 2026年のライセンス申請 → 適用
そもそもの問題は
Jリーグは2020年4月から2022年6月にわたって4度、財務基準の特例措置についてのプレスリリースを発表していました。しかしながら今回の変更についてのプレスリリースは2023年4月時点でまだありません。2023年版の交付規則は1月1日に公開されているので、これまでプレスリリースで発表してきた特例措置の内容と改正した交付規則との間に差異がある状態が3ヶ月以上続いています。
また、この変更は先述の通り2022年12月に開催されたJリーグの第4回社員総会及び実行委員会後の報道資料に記載されている内容だと思われますが、それを伝えているメディアは「Jウォッチャー ~日本サッカー深読みマガジン~」の一件しかありません。それも報道資料の引用という形で記載しているだけであって、この変更について記事内での言及はありません。
財務基準の改正が確認できるもののJリーグ公式のプレスリリースや報道が一切ない、という状態で、改正後の交付規則に間違いらしき箇所が存在するため、交付規則から正しい情報を読み取ることができない、ということを言いたい記事でした。