2023年11月07日
外資によるJクラブの保有について
Y.S.C.C.とNever Say Neverの資本提携に関連して、改めて外資によるJクラブへの資本参画のルールを規約面から調べてみました。Jリーグには外資が参入できない、とよく言われますが、結論を先に言うと外資によるクラブの保有を制限する規約は2020年の改正で削除されています。
この記事では外資の参入について規約上どのように定義され、どのように変化してきたかを確認します。なお、ここでは外資を「内国法人でない法人」あるいは「日本国籍を有しない個人」とし、クラブの保有を「議決権の過半数を保有すること」と定義します。
Jリーグ規約におけるJクラブの資格要件
Jリーグ規約には第3章Jクラブの資格要件を定めた条項が存在しています。この条項によってJリーグは外資によるクラブの保有を制限していました。ここでは1993年から2023年までのJリーグ規約でこの文面を確認します。なお条番号については年度ごとに変化するため省略します。
条項の構成
Jリーグの正会員および準会員たるクラブ (以下総称して「Jクラブ」という)は、以下の要件を具備するものでなければならない。
の文面の後にJクラブの資格要件が記載されています。ここでは外資によるJクラブの保有を制限した文面だけを抜粋しています。
1993年から1997年まで
日本法に基づき設立された株式会社であり、発行済株式総数の過半数を日本国籍を有する者が保有していること
日本法に基づき設立された発行済株式総数の過半数を日本国籍を有する者が保有している株式会社
「発行済株式総数の過半数を日本国籍を有する者が保有している株式会社」がJクラブの資格要件とされています。「者」とは「法人」と「自然人(個人)」のことです。「外国法人」と「日本国籍を有しない個人」、つ まり外資によるJクラブの過半数の株式の取得は認められていません。一方で、外資による株式の取得(経営参画)については特に制限はありませんでした。
1998年から2008年まで
日本法に基づき設立された公益法人または発行済株式総数の過半数を日本国籍を有するものが保有する株式会社であること
- 日本法に基づき設立された公益法人 (新設)
- 日本法に基づき設立された発行済株式総数の過半数を日本国籍を有するものが保有する株式会社
1998年から公益法人によるクラブ運営が認められることになりました。この変更により公益社団法人が運営するモンテディオ山形(2014年以降株式会社化)が1999年に創設されたJリーグディビジョン2に参加しています。
ここから2019年まではマイナーチェンジなので読み飛ばしてしまっても構いません。
2009年
日本法に基づき設立された公益法人または発行済株式総数の過半数を日本国籍を有する者が保有する株式会社であることもしくは内国法人であること
- 日本法に基づき設立された公益法人
- 日本法に基づき設立された発行済株式総数の過半数を日本国籍を有する者が保有する株式会社
- 日本法に基づき設立された内国法人(恐らく文面のミスで1年で修正)
3に関しては1年後に改正されたことを考えると恐らく文面のミスだと考えられます。「日本法に基づき設立された発行済株式総数の過半数を内国法人が保有する株式会社」を意図していると思われますが、「もしくは」の位置によって正しい意味が読み取れません。
2010年、2011年
日本法に基づき設立された、発行済み株式総数の過半数を日本国籍を有する者か内国法人が保有する株式会社であることまたは公益法人であること
- 日本法に基づき設立された発行済み株式総数の過半数を日本国籍を 有する者か内国法人が保有する株式会社
- 日本法に基づき設立された公益法人
前述の通り「日本国籍を有する者」の「者」は「個人」と「法人」の両方を指しますが、意味の明確化のために「日本国籍を有する者」と「内国法人」に分ける文面となっています。内容は1998年から変わっていません。なお内国法人とは法人税法において「国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう」と定義されています。
2012年、2013年
日本法に基づき設立された、発行済み株式総数の過半数を日本国籍を有する者か内国法人が保有する株式会社であることまたは公益社団法人もしくは特例社団法人であること
- 日本法に基づき設立された発行済み株式総数の過半数を日本国籍を有する者か内国法人が保有する株式会社
- 日本法に基づき設立された公益社団法人もしくは特例社団法人
公益法人改革制度の影響により特例社団法人が追加されていますが、実質的な内容に変化はありません。特例社団法人とは、公益法人改革制度において暫定移行期間として定められた2008年から2013年の間に、新制度への移行が完了していない社団法人のこと。
なお2012年からJリーグクラブライセンス制度の導入により、資格要件は「ライセンスの有無」と同要件の2項になります。
2014年、2015年
日本法に基づき設立された、発行済み 株式総数の過半数を日本国籍を有する者か内国法人が保有する株式会社であることまたは公益社団法人であること
- 日本法に基づき設立された発行済み株式総数の過半数を日本国籍を有する者か内国法人が保有する株式会社
- 日本法に基づき設立された公益社団法人
2016年から2019年まで
日本法に基づき設立された、総株主の議決権の過半数を日本国籍を有する者か内国法人が保有する株式会社であることまたは社員たる地位の過半数を日本国籍を有する者か内国法人が保有する公益社団法人であること
- 日本法に基づき設立された、総株主の議決権の過半数を日本国籍を有する者か内国法人が保有する株式会社
- 日本法に基づき設立された、社員たる地位の過半数を日本国籍を有する者か内国法人が保有する公益社団法人
2023年現在(2020年以降)
日本法に基づき設立された株式会社または公益社団法人であること
- 日本法に基づき設立された株式会社
- 日本法に基づき設立された公益社団法人
2020年のJリーグ規約の改正ではクラブの株主の属性に関する記述が削除されています。文字通り解釈すれば、この改正をもって外資によるJクラブの保有が解禁されたと言っていいでしょう。
それ以外の規約・規程では
これまで見てきたJクラブの資格要件以外の規約・規程でJクラブの株主構成はどのように制限されているでしょうか。
Jリーグ規約第29条「Jクラブの株主」
Jリーグ規約第29条「Jクラブの株主」では、株主名簿の提出、新規大口株主の適正性の審査、クロスオーナーシップの禁止、暴力団員の株式保有の禁止を定めています。
新規大口株主の適正性については、株主の業種が「風俗」「宗教」「政治」の場合はクラブの1/3以上の株式保有を不可とし、株主の業種が「仲介人」「反社」であれば一切のクラブ株式保有を不可としています。
Jリーグクラブライセンス制度の法務基準
Jリーグクラブライセンス制度の法務基準ではクラブの登記情報の提出(L.02)、クロスオーナーシップの禁止(L.03)、グループの法的構造に関する情報の提出(L.04)が定められていますが、株主について制限を行う条文は存在しません。
このことから、Jリーグ規約第3章で定めたJクラブの資格要件が外資によるJクラブ保有の制限の根拠となっていたことが確認できました。
以上、外資によるJクラブ保有の制限に関する条文とその変遷をJリーグ規約の原文から確認しました。