2024年10月10日
2025シーズン Jリーグクラブライセンス レビュー 施設基準編
2024年9月24日、Jリーグは2025シーズンのクラブライセンス判定結果を発表した。
この記事は施設基準について、Jリーグの規約・規程を参考に「クラブライセンス判定結果発表および説明会 発言録」を補足する内容である。
2025シーズンクラブライセンス一覧
J1クラブライセンス (49)
区分 | 数 | クラブ |
---|---|---|
例外規定なし | 41 | 札幌、仙台、山形、鹿島、栃木、群馬、浦和、大宮、千葉、柏、FC東京、東京V、町田、川崎、横浜FM、横浜FC、湘南、甲府、松本、新潟、富山、清水、磐田、名古屋、岐阜、京都、G大阪、C大阪、神戸、岡山、広島、山口、讃岐、徳島、愛媛、福岡、北九州、鳥栖、長崎、熊本、大分 |
例外規定2 (スタジアム) | 7 | 岩手、いわき、水戸、金沢、藤枝、鹿児島、琉球 |
例外規定 (トレーニング施設) | 5 | 岩手、秋田、いわき、藤枝、鹿児島 |
J2クラブライセンス (11)
区分 | 数 | クラブ |
---|---|---|
例外規定なし | 3 | YS横浜、FC大阪、鳥取 |
例外規定2 (スタジアム) | 7 | 八戸、福島、相模原、沼津、奈良、今治、宮崎 |
停止条件付 | 1 | 長野 |
J3クラブライセンス (7)
区分 | 数 | クラブ |
---|---|---|
例外規定なし | 7 | 青森、栃木C、新宿、三重、滋賀、高知、V大分 |
施設基準の基本
施設基準はスタジアムとトレーニング施設に関する内容に大別される。その主な内容は以下の通りである。
スタジアム (施設基準I.01,02,03,06,07,08,09)
- クラブはホームタウン内に『Jリーグスタジアム基準』に適合したホームスタジアムを確保しなければならない (施設基準I.01)
- 『Jリーグスタジアム基準』にはJ1・J2基準とJ3基準の2種類の基準がある
- 『Jリーグスタジアム基準』のJ1・J2基準は「入場可能数」とVAR関連の設備において更にJ1規格とJ2規格に分けられる (ただしVAR関連設備は容易にクリア可能であるため、実質的に「入場可能数」でJ1規格とJ2規格が決まる)
入場可能数 (Jリーグスタジアム基準)
- J1基準の入場可能数は15,000人以上(うち椅子席10,000席以上)、芝生席は入場可能数に含めない
- J2基準の入場可能数は10,000人以上(うち椅子席8,000席以上)、芝生席は入場可能数に含めない
- J3基準の入場可能数は原則5,000人以上(メインスタンドに椅子席があること)、芝生席は入場可能数に含めることができる
- 2024年の『Jリーグスタジアム基準』改定で、J1・J2基準の「入場可能数」は「ただし、Jリーグ規約第34条に定める「理想のスタジアム」の要件を満たし、ホームタウン人口等の状況、観客席の増設可能性(特に敷地条件)、入場料収入確保のための施策等を踏まえて理事会が総合的に判断した場合、5,000人以上(全席個席であること)で基準を満たすものとする。」という緩和条件が追加された
トイレ (施設基準I.08)
- スタジアムのトイレの数は、1,000名の観客に対し、少なくとも洋式トイレ5室、男性用小便器8基を備えることが、クラブライセンス交付規則の中にB等級基準として規定されている(施設基準I.08)
屋根 (Jリーグスタジアム基準、施設基準I.09)
- 『Jリーグスタジアム基準』では新設及び大規模改修を行うスタジアムについては、原則として屋根はすべての観客席を覆う「全屋根」基準がJ1・J2基準に おいて必須である
- 観客席の1/3以上を覆うことは『Jリーグスタジアム基準』とは別に、クラブライセンス交付規則の中にB等級基準として規定されている(施設基準I.09)
例外規定(スタジアム)
「入場可能数」と「大型映像装置」の2項目について、現行のスタジアムが基準を満たしていなくても時限的に上位ライセンスを取得できる例外規定が2019年に導入された。
例外規定には2種類あり、例外規定1はライセンスを申請した年のシーズン終了までに基準を満たすための工事が着工していることが条件。昇格後4年目のシーズン開幕までに工事が完了できなければ効力を失う。
例外規定2はJリーグが定める「理想のスタジアム」を将来的に整備することを約束することが条件。昇格後3年目のシーズンのライセンス申請までに具体的な計画を提出できなければ効力を失う。また昇格5年目のシーズン終了までに工事を着工することで例外規定1に切り替えることができる。
例外規定の適用を受けるにはライセンス審査書類として『例外適用申請書』を提出する必要がある。
トレーニング施設 (施設基準I.04,05)
- J1・J2ライセンスでは年間を通じて優先的に利用できる練習場を必要とし、J2ライセンスではピッチが人工芝であっても認められる (施設基準I.04)
- J1・J2ライセンスでは練習場に隣接したクラブハウスを必要とし、クラブハウスの仕様によってJ1ライセンスとJ2ライセンスが分けられる
施設基準I.04 トレーニング施設
(1) ライセンス申請者は、年間を通じてライセンス申請者専用のもしくはライセンス申請者が優先的に使用できる、以下の各号に定める設備を備えたトレーニング施設を有していなければならない。
① 常時使用できる天然芝、またはハイブリッド芝のピッチ1面(J2ライセンスに限っては人工芝でもよい)および屋内トレーニング施設
② 前号のピッチを観覧できるエリア。ただし、一般客およびメディアそれぞれのために設けられているものとする
③ クラブハウス(J1ライセンスに限っては以下の設備を備えたものでなければならない)
イ. トレーニングジム
ロ. トップチーム用の更衣室(トップチームの選手全員が使用可能な数のロッカー、8基程度のシャワー、トイレを備えていること)
ハ. ビジターチーム用 の更衣室
ニ. メディカルケアスペース(マッサージ台2台、ベッド、担架、AED、冷蔵庫および製氷機を備えていること)
ホ. トップチームの選手、コーチ、チームスタッフ全員が収容可能なミーティングルーム(映像再生装置が使用可能であること)
ヘ. メディアからの取材に対応するスペース
ト. メディアが作業できるスペース(ヘ.のスペースとは別であること)
チ. 駐車場(クラブ関係者、メディア、一般利用者それぞれのために用意されていること
④ メディカルルーム(J1ライセンスに限っては前号ニ.に定められた設備を備えたもの)
例外規定(トレーニ ング施設)
トレーニング施設についても、基準を満たしていない場合でも時限的に上位ライセンスを取得できる例外規定が導入されている。トレーニング施設の例外規定では、昇格後3年目のシーズン中に行うライセンス申請までに基準を満たすトレーニング施設を完成・供用できなければ上位ライセンスの効力を失う。
例外規定の適用を受けるにはライセンス審査書類として『例外適用申請書』を提出する必要がある。
主なトピック
- 秋田、鹿児島、琉球にJ1・J2ライセンス交付
- 相模原、岩手、いわきの例外規定
- クリアソン新宿にJ3ライセンス交付
秋田、鹿児島、琉球
J1・J2ライセンスの取得に懸念があったブラウブリッツ秋田、鹿児島ユナイテッドFC、FC琉球の3クラブに、2025シーズンのJ1ライセンスが交付された。
プレビューで述べた通り、この3クラブがJ1・J2ライセンスを取得している理由は施設基準の例外規定ではない。各クラブが抱える問題が例外規定と混同されることがとても多いため、この点は何度でも強調したい 。ただしこの3クラブがいずれも別途、例外規定によってJ1ライセンスを取得していることは混同の一因となっている。詳しいロジックについてはプレビューに記載したのでそちらを参照していただきたい。
例外規定ではないため、何年以内に何をなすべきといった明確な判断基準はない。J1・J2ライセンスの審査機関であるFIBによって新スタジアムの「計画が進捗している」と判断されることが、今後のJ1・J2ライセンス交付の条件となる。
本年の審査ではこの3クラブはいずれも「昨年からは一定の進捗が確認できたと判断」「(ライセンス交付判定をする)9月のタイミングにおいては進捗があったと判断」されたことから、2025シーズンのJ1・J2ライセンスが交付された。
この2024シーズンのライセンス判定においては、昨年あらためて表明していただいた意向の通り、スタジアム建設の計画を進めていただく必要があるものの、いずれの地域においても昨年一定の進捗が見られたということでクラブライセンス交付となりましたが、引き続きJリーグによるモニタリングが必要ということを特記事項として記載しています。
「全屋根」基準について
『Jリーグスタジアム基準』では「新設及び大規模改修を行うスタジアムについては、原則として屋根はすべての観客席を覆うこと」をJ1・J2基準において「必ず具備しなければならない条件」としている。この項目は2013年の『スタジアム検査要項』で導入され、2015年に必須化された。したがって、2015年以降に新設・大規模改修したスタジアムは原則すべての観客席を覆う屋根がなければならないことになる。
ところが、2015年以降に新設したものであっても「全屋根」ではないスタジアムは存在する。例えば2017年完成のミクニワールドスタジアム北九州、2024年竣工のゴーゴーカレースタジアム金沢は共にJ1・J2基準を満たしているが、一部の観客席に屋根はない。
となると、特記事項付きとなった秋田、鹿児島、琉球の3クラブとの差異について考える必要がある。この3クラブがいずれも陸上競技場の改修であるのに対して、北九州、金沢は新設したフットボールスタジアムである。またこの2つのスタジアムの屋根がかかってない観客席は、設計上、拡張可能な余地を残している部分である。
したがって、新設・大規模改修したスタジアムのうち、フットボールスタジアムについては拡張可能な余地を残すことで、「全屋根」基準が免除されていると考えられる。
いわき、岩手、相模原
過去に例外規定2を適用してJ2に昇格した相模原、岩手、いわきの3クラブについて、具体的な計画の提出期限が一律で2025年6月末であることが明示された。
昨年のライセンス判定結果発表時に、昇格後3年目のシーズンを迎えた相模原に対して「例外規定申請後の2年間(2020、2021年度)はコロナの影響を大きく受けたと判断し、計画提出期限を2025年6月まで延長する」ことが示されていたが、岩手については言及はなかった。
この3クラブは来年6月末のライセンス申請時までにスタジアム整備の具体的な計画を提出できないと、J2ライセンスを取得することができなくなる。
岩手、いわき、相模原については、過去に例外規定を用いてJ2に昇格しており、スタジアム整備に向けた猶予期間のカウントがスタートしています。
昇格の順番順では、相模原は2021シーズン、岩手は2022シーズン、いわきは2023シーズンに例外規定を使ってJ2に昇格しています。
次のマイルストーンとしては、昇格して3年以内に具体的な整備計画を提出していただくということになりますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響がありましたので、相模原は2年、岩手は1年と期限が延長され、3クラブいずれも2025年6月末が具体的な計画の提出期限となります。その背景も含めて特記事項となります。
その他の例外規定
秋田のトレーニング施設
ブラウブリッツ秋田は2024年、潟上市にクラブハウスを新設。新たなクラブハウスはJ1基準を満たして いるものと考えられるが、2025シーズンはトレーニング施設の例外規定によるJ1ライセンス交付となった。
ライセンス申請時に竣工していないトレーニング施設であっても、翌年1月31日までに完成、供用開始できるのであればライセンスを取得することができる。
では何故例外規定によるJ1ライセンス交付となったか。クラブが例外規定を申請したからである。何を当たり前のことを、と思われるかもしれないが、クラブライセンスはクラブが提出する書類によって審査される。例外規定はクラブが『例外適用申請書』を提出して初めて適用されるものであって、クラブライセンス交付第一審機関(FIB)が勝手に例外規定を適用してJ1ライセンスを与えているわけではない。
つまり今回の場合、ブラウブリッツ秋田は施設基準I.04「トレーニング施設」の提出書類である『トレーニング施設調査票』に新設予定のクラブハウスの仕様は記載せず(できず?)、『例外適用申請書』を提出することで例外規定を受けた、ということになる。
そのようにした理由は不明だが、前述の通りクラブハウスは完成しているため、例外規定の有無がクラブに何か影響を与えることはない。
Q:例外規定のトレーニング施設の部分に秋田も入っていました。秋田は先月、専用練習グラウンドとクラブハウスも完成したのですが、正式稼働がまだなので今回のライセンス判定では例外規定の採用ということなのでしょうか。
A:大城マネージャー
ご認識の通りで、今回に関しては例外規定でJ1に昇格して3年以内にJ1基準のトレーニング施設を整備するということを申請していただいています。
その他スタジアムに関する例外規定
スタジアムの例外規定2を適用して2025シーズンの上位ライセンスを取得したのは14クラブである。制度導入1年目であった2019年(2020シーズン)の3クラブ(鹿児島、琉球、武蔵野)から大幅に増加している。
これはJリーグ(FIB)のライセンス判定が甘くなった、ということではない。例外規定2を申請するクラブが増えているということである。
制度導入以降、Jリーグ(FIB)は『例外適用申請書』を提出したクラブに対して無条件で例外規定2による上位ライセンスを交付している(「入場可能数」「大型映像装置」以外の基準は満たす必要がある)。昇格後5年以内のスタジアム整備についての実現可能性は、この時点でJリーグ(FIB)は判断しない。是非はともかく、制度導入後は一貫してその運用がされている。
したがって、例外規定2で上位ライセンスを取得しているクラブは、クラブ判断で『例外適用申請書』を提出しているのであって、実現可能性についてリーグが判断した上の交付ではない。昇格後3年目までに提出を必要とする具体的な計画が、実現可能性についてリーグが判断する最初の材料である。
クリアソン新宿の「特例」について
クリアソン新宿は昨年に引き続き「施設基準に課題があるものの、東京23区というホームタウンの特性に鑑み」特例としてJ3ライセンスが交付されている。
なお、2024シーズンに引き続きクリアソン新宿は施設基準に課題があるものの、東京23区というホームタウンの特性に鑑みJ3クラブライセンスの交付を決定しました。
「特例」のロジックを改めて確認する。
クリアソン新宿のホームタウンは「新宿区」である。
Jリーグ規約によると、ホームタウン内に所在するJリーグスタジアム基準を充足するスタジアムを「ホームスタジアム」と呼ぶ。Jクラブはホームスタジアムを確保していなければならない(Jリーグ規約第32条)。
第32条〔スタジアムの確保〕
Jクラブは、ホームタウン内に、Jリーグが別途定めるJリーグスタジアム基準を充足するスタジアム(以下「ホームスタジアム」という)を確保しているものとする。
クラブライセンス交付規則によると、Jクラブは80%以上のホームゲームを開催できるホームスタジアム(複数可)を確保しなければならない(交付規則 施設基準I.01「公認スタジア雨」)。
施設基準I.01 公認スタジアム(ホームスタジアム)
(1) J3ライセンス申請クラブは、Jリーグ公式試合の試合開催に利用することのできる、以下のいずれかの条件を満たすスタジアムを、ホームスタジアムとして確保しなければならない。
① J3ライセンス申請クラブがスタジアムを所有していること
② J3ライセンス申請クラブと使用するスタジアムの所有者(複数ある場合はそれぞれのスタジアムの所有者)との間で、Jリーグ公式試合においてスタジアムを使用できることが、書面(Jリーグ指定書式)にて合意されていること。なお、Jリーグ公式試合におけるスタジアムの使用とは、ホームゲーム数の 80%以上を原則として当該スタジアムで開催することを指す。なお、公式試合で使用するスタジアムが複数ある場合は各会場で開催される公式試合の合計数を対象とする
したがってクリアソン新宿はホームタウンの「新宿区」内に80%以上のホームゲームを開催可能なホームスタジアムを確保しなければならない。これを満たしていない。
昨年の「クラブライセンス判定結果発表ならびに説明会」によると、クリアソン新宿は新宿区以外の都内に所在するJ3基準を満たす複数のスタジアムで一定数のホームゲームが開催可能であることを提示している。その結果「東京23区というホームタウンの特性に鑑み」J3ライセンスが交付されている。
クリアソン新宿のJ3ライセンスに関する質疑 (2023年)
Q:J3クラブライセンスの交付について、クリアソン新宿は施設基準に課題がある一方で、東京23区内にスタジアムがあるということを鑑みてということですが、どのような課題があるのでしょうか。また、どのような理由で交付に至ったのか、理由をもう少し詳しくお聞かせください。
A:大城クラブライセンスマネージャー
クリアソン新宿は新宿区をホームタウンとするクラブです。Jリーグのルールで はホームタウン内にあるホームスタジアムで年間80%以上ホームゲームを開催しなくてはいけないということがあります。新宿区には国立競技場がありますがホームスタジアムにはなっていないため、ルールに厳格に照らしわせると厳しい現状があります。
ただ、クラブの方でいろいろ動いていただいて、東京都内である程度のホームゲームを開催できる目途が立ったため、今回特例ということでJ3ライセンスが交付されることになりました。
Q:一つのホームスタジアムを決めたというよりも、都内で80%以上試合をできるから交付することとなったということでしょうか。
A:大城クラブライセンスマネージャー
そうなります。
Q:東京23区がホームタウンであるという特性が、その部分になるのでしょうか。
A:大城クラブライセンスマネージャー
国立競技場がありますが、そこはリーグとしてはリーグ全体で使っていきたいという意向があり、そうした特徴は現状23区に限ったことですので、そのような背景を踏まえて今回の判定に至りました。
Q:同様のケースでJリーグに入会したいクラブが出てきた場合に、同様にライセンスを交付する基準になるのでしょうか。それとも例外的なことになるのでしょうか。
A:大城クラブライセンスマネージャー
ルールを何か見直すというよりは、現状のルールの中で、今クリアソン新宿が置かれている状況を踏まえての判断となりますので、仮に東京23区をホームタウンとするクラブが今後現れた場合に、それだけでライセンスを交付するかというと、その時に確保できるスタジアムの状況を確認した上で、それが許容できる範囲なのかどうかということを理事会で審議することになります。
Q:23区にホームタウンがあるクラブ、23区内にホームタウンがあるクラブはクリアソン新宿が初になるのでしょうか。南葛SCはJ3クラブライセンスが交付されていなかったか記憶が定かでないのですが。
A:大城クラブライセンスマネージャー
FC東京と東京ヴェルディは東京都をホームタウンとするクラブなので、23区をホームタウンとするクラブになります。23区をどのようにとらえるかは難しいですが、23区の特別区のみをホームタウンとするクラブはクリアソン新宿が初となります。南葛SCはJリーグ百年構想クラブにはなっていますが、J3クラブライセンスは交付されていません。
Q:施設基準について、クリアソン新宿は味の素フィールド西が丘などで転々と試合をされていて、主に西が丘で試合をしているという印象がありますが、今後、来年も西が丘をメインで、都内のスタジアムで80%以上開催できるということが確認できたということでよろしいでしょうか。
A:大城クラブライセンスマネージャー
はい。ある程度の試合を都内の基準を満たしたスタジアムで開催できるという確度が高い、ということが確認できました。
仮にクリアソン新宿のホームタウンが「新宿区を中心とする東京都」(全域)であったり、ホームゲーム開催予定の複数の自治体で構成されていれば、ライセンス取得に支障はない。あるいはホームタウンである新宿区内に位置する国立競技場で80%以上のホームゲームを開催するのであれば、同様にライセンス取得に支障はない。
このように、厳密な運用を行えばクリアソン新宿は施設基準I.01を充足できず、J3ライセンスを取得できないことになる。
基準未充足か、基準を充足しているものとみなされているのか
ところで、クリアソン新宿のJ3ライセンスは、施設基準I.01未充足であるが「特例」として与えられているものだろうか。それとも「特例」として施設基準I.01を充足しているものとみなされて与えられているものだろうか。
実はJ2ライセンス、J3ライセンスについては、必須となる基準が未充足の場合であっても、Jリーグ理事会の判断によりライセンスが与えられることがある。ただしこの場合、当該クラブには制裁が課される。
J1・J2クラブライセンス交付規則
第21条 〔J1・J2ライセンス等の付与 / 譲渡〕
(2) ライセンス申請者が、第8章から第12章に定める各ライセンス基準のうちJ1に関するA等級のものをすべて充足する場合は、J1ライセンスが付与されるものとする。
(3) 前項に定める場合を除き、ライセンス申請者が、第8章から第12章に定める各ライセンス基準のうちJ2に関するA等級のものをすべて充足する場合は、J2ライセンスが付与されるものとする。
(4) ライセンス申請者が、第8章から第12章に定める各基準のうちA等級のものをいずれか1つでも充足しない場合は、J1・J2ライ センスは付与されないものとする。J2ライセンスについては、いずれかを充足しない場合であっても、対象シーズンのJ2リーグの安定開催に支障を及ぼさないと認められる場合には、Jリーグ理事会がJ2ライセンスを付与することができる。かかる場合、Jリーグ理事会が制裁を科すものとし、制裁の種類はJリーグ規約第142条第1項各号を準用するものとする。
J3クラブライセンス交付規則
第5条 〔審査方法〕
(1) 審査は第7条から第 11 条までに定める各基準をすべて充足した場合に合格したものとする。
審査に合格したJ3ライセンス申請クラブには、対象シーズンのJ3ライセンスが交付される。
(2) 前項の規定にかかわらず、理事会は、第7条から第11条までに定める基準のいずれかを充足しない場合であっても、対象シーズンのJ3リーグの安定開催に支障を及ぼさないと認められる場合には、J3ライセンスを交付することができる。かかる場合、理事会が制裁を 科すものとし、制裁の種類はJリーグ規約第 142 条第1項各号を準用するものとする。ただし、財務基準 F.01 第3項および財務基準 F.06 第3項に定める基準が未充足であったJ3ライセンス申請クラブに対する制裁は、原則として、対象シーズンの勝点減(最大 10 点)とする。
Jリーグによる公式の見解は公表されていないが、クリアソン新宿には制裁が課されていないことから、「東京23区というホームタウンの特性に鑑み」施設基準I.01を充足しているものとみなされて、J3ライセンスを取得しているものと考えられる。
施設基準の「例外規定」が交付規則に規定された例外であり、機械的に判定されるのに対して、新宿の件は交付規則を充足しないがライセンスを付与する「特例」である。一緒くたにされがちだが、その点は明確に異なる。
B等級基準 (屋根・トイレの数)
スタジアムの屋根のカバー率やトイレの数は、交付規則のなかでB等級基準として規定されている。B等級基準は達成が必須のものであり、未充足の場合クラブに対して制裁に課される。
B等級未充足による制裁一覧
- クラブ名・スタジアム名の公表
- 改善計画の提出
- 戒告
- けん責
- ライセンス基準を満たすための期限延長
- 特定の期限までにライセンス基準を満たす義務
- 罰金(1億円を上限とする)
- 勝点の減点(15点を上限とする)
- 人員の停職
- ライセンサーの然るべき機関への問題報告
- 保証および引受義務
- 補助金/賞金の保留
- より詳細な財務情報の要求
- 無観客試合
- 収容人数の削減
- J1・J2ライセンス等の見直し・取消し
- J1・J2ライセンス等の保留
- 移籍契約締結の禁止
- 下位リーグへの降格
屋根のカバー率の不足、トイレの数の不足の場合、「クラブ名・スタジアム名の公表」および「改善計画の提出」という制裁が課されてる。いずれも軽微な制裁であり、ライセンス制度導入以降10年間制裁の内容が変わっていないことから、実質的にはC等級基準と同等と捉えてもいいだろう。
クラブ単独での達成が困難な基準であることから、今後制裁の内容が「罰金」や「勝点の減点」と厳罰化することや、基準がライセンス交付に必須となるA等級に格上げされることは想定しづらい。
ただし先に見た通り、新設または大規模改修を行うスタジアムについては『Jリーグスタジアム基準』に則り原則すべての観客席を覆う屋根がなければならない。
総論
2025シーズンのクラブライセンス判定における施設基準について、そのロジックを確認した。
クラブライセンスの審査は基本的に交付規則に則り規定通り、機械的に判定されるものである。ただしここまで見てきたように、なかには審査を行うFIB/Jリーグ理事会の裁量が介在する基準も存在する。
施設基準においては、①秋田、鹿児島、琉球などの「全屋根」基準、②相模原、岩手の例外規定2のスケジュール変更、③クリアソン新宿のJ3ライセンスの3つの事項がFIB/Jリーグ理事会の裁量が介在している例といえる。
ライセンス判定においてある程度の裁量を持たせることは、制度を上手く回すために必要なことであるが、裁量の範囲を広げすぎたり、公平感・納得感の欠ける内容であると、恣意的な運用と捉えられクラブライセンスの信頼性を損なう危険性を孕む。
ただしその裁量が公平で納得いくものであるかどうかを判断するには、クラブライセンス交付規則やJリーグスタジアム基準の内容とそのロジックについて正しく理解しなければならない。
いずれにせよ、裁量の行使はクラブライセンス制度の目的「サッカーの競技水準や施設的水準の持続的な向上」「クラブの経営安定化、財務能力・信頼性の向上」に適うものでなければならない。