Jリーグがシーズン移行に伴う財務基準の特例措置を発表

2025年09月18日

Jリーグがシーズン移行に伴う財務基準の特例措置を発表

Jリーグは2025年9月18日、2026/27シーズンからのシーズン移行に対応するクラブライセンス制度の改定内容を公表した。

2026/27 シーズンに向けクラブライセンス制度を改定 (2025年9月18日)
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今回の発表の要点は以下の3点である。

  1. シーズン移行に伴う審査スケジュールの反映
  2. シーズン移行に伴う財務基準に関する特例措置の設定
  3. J3クラブ指導者ライセンスの見直し(2025年8月決議・既報)の反映

本稿では、このうち財務基準に関する特例措置について取り上げる。

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新たに設置される財務基準の特例措置

2026年夏のシーズン移行に伴い、財務基準に関する新たな特例措置が導入される。シーズン移行に伴う財務的な混乱を考慮し、一定期間に限りライセンス交付判定から「債務超過の禁止」と「3期連続赤字の禁止」を外すものである。特例措置の導入は、コロナ禍でクラブ経営が大きく揺らいだ2020年に続く対応となる。

制度は「特例措置期間」と「猶予期間」の二段階で構成される。特例措置期間中は債務超過や連続赤字はライセンス判定の対象外となるが、猶予期間に入ると「新たに債務超過に陥ること」や「債務超過額を増加させること」が禁止され、3期連続赤字のカウントも再開する。

決算期や契約時期の変更により財務状況への影響が大きくなることを踏まえ、2026特別シーズンと2026/27シーズンの決算期は特例措置を適用する。その後、1年間の猶予期間を設け、2028/29シーズン決算(2029年6月期)から元の基準に戻す。

2026/27 シーズンに向けクラブライセンス制度を改定

具体的には、2026年前半期と2026/27シーズンを特例措置の対象、2027/28シーズンを猶予期間の対象とする。これにより、2020年に始まった財務基準特例の枠組みは2028年まで存続することになった。ただし進行中の2025年度決算には特例措置が適用されないため、2024年度以前から債務超過に陥っているクラブは、2025年度中に解消しなければならない。


これまでの特例措置の経緯

2020年 コロナ禍による特例措置導入

20年度特例措置
21年度特例措置
22年度猶予期間
23年度猶予期間
24年度通常運用

コロナ禍でクラブ財務が悪化したため、2020〜21年度を特例措置、22〜23年度を猶予期間とする制度が導入された。2020年度にはJ1〜J3の56クラブ中10クラブ、翌21年度にはさらに2クラブが債務超過に陥った。

2023年 配分金改革に伴うスケジュール修正

20年度特例措置
21年度特例措置
22年度猶予期間
23年度特例措置(変更)
24年度猶予期間(変更)
25年度通常運用

2023年、均等配分金の減額などを柱とする配分金改革に合わせ、特例措置のスケジュールが改定された。23年度を新たに特例措置とし、24年度を猶予期間としたことで、債務超過クラブは解消をさらに1年先延ばしできた。結果として、21年度に12クラブあった債務超過は22年度には6クラブに減少したものの、23年度には新たに3クラブが債務超過に陥り、24年度末時点でも5クラブが債務超過にある。これらのクラブは25年度中に必ず解消を求められる。

2025年 シーズン移行に伴う特例措置設置

25年度通常運用
26半期特例措置
26/27特例措置
27/28猶予期間
28/29通常運用

新たに設けられたシーズン移行期の措置では、26年前半期と26/27シーズンが特例措置、27/28シーズンが猶予期間とされる。
この間に債務超過となった場合は以下が適用される。

  1. 2028年6月期で債務超過額を増加させてはならない
  2. 2029年6月期までに債務超過を解消しなければならない

また、3期連続赤字の禁止規定は28年6月期を起点としてカウントが再開される。つまり28・29・30年6月期の3期連続赤字は禁止される。ただし2018年に導入された規定に基づき、純資産が十分にある場合には例外的に3期以上の連続赤字が認められる。

今年のライセンス審査の扱い

今年の2026特別シーズンに向けたライセンス審査については、コロナ禍後に債務超過に陥ったクラブであっても、進行中の2025年度決算で必ず解消が求められる。今回の特例措置は債務超過解消に新たな猶予を与えるものではない。

クラブライセンス財務基準には、前年度の決算を対象とするF.01「年次財務諸表」と、進行期の見通しを対象とするF.06「予算および財務見通し」がある。今年度は特例措置が適用されないため、F.06に基づき「今期中に債務超過に陥らないこと」が審査対象となる。

過去の事例としては、2022年公表の経営情報開示資料で「進行期が債務超過であれば判定対象となる」と明記されたケースや、2025シーズンのライセンス審査でAC長野パルセイロが進行期の債務超過リスクを説明できず条件付きライセンスとなった例がある。

AC長野パルセイロがクラブライセンスの停止条件充足を発表 (2024年11月22日)

仮に今期中に債務超過が解消できない、あるいは新たに債務超過に陥ると判断された場合、J1特別大会(仮称)への参加は認められず、J2・J3特別大会(仮称)への参加のみ可能と考察する。

現時点では来年の26特別シーズンに開催される「J1特別大会(仮称)」「J2・J3特別大会(仮称)」への参加に必要なライセンスは示されていない。順当に考えれば前者にはJ1ライセンスが必須、後者にはJ3ライセンス以上が必須となるだろう。

J2ライセンスについては、基準未充足の場合でもJリーグ理事会が制裁付きで付与できる。一方、J1ライセンスにはそのような救済規定はない。

J3ライセンスも制裁付きで付与可能であり、交付規則では財務基準抵触の場合「勝点最大10減」と具体的な制裁内容を定めている。ただし半年間の大会における10点減は過大と考えられるため、実際には制裁が緩和または免除される可能性もある。制裁の有無次第ではJ3クラブに対して実質的にコロナ禍における債務超過の解消に猶予が与えられたという見方もできる。

その他

ライセンス審査スケジュールの変更

シーズン移行に伴い、審査スケジュールは以下のように変更される。

  1. 2026特別シーズンに向けた判定を2025年9月に実施
  2. 2026/27シーズンに向けた判定を2026年5月に実施
  3. 2027/28シーズン以降は毎年3月に判定(例:27/28シーズンは27年3月に判定)

申請期限は判定月の3カ月前末日となり、26/27シーズンの申請期限は26年2月末日、27/28シーズンは26年12月末日となる。

今年のライセンス審査は「26特別シーズン限定」

現行規則では、今年の審査が26特別シーズンに限定されるのか、26/27シーズンまで含むのか明確でなかった。今回の発表で、今年実施される審査は26特別シーズン限定のライセンスであり、26/27シーズン分は26年5月に別途審査されることが確定した。

交付規則の読解の難しさ

今回の発表では改定前後の規則・細則の比較表が公開された。制度運用を文章に落とし込むことは不可欠だが、その文章が曖昧であってはならない。誰が読んでも同じ理解に至る精度が求められる。しかし実際の規則文は難解で、図解の内容が正しく反映されているか疑問も残る。例えば「2026年から2028年のライセンス申請」といった表現が、移行期の複雑なスケジュールを適切にカバーしているのかは不透明である。今後のさらなる整理が待たれる。

改定後の財務基準F.01 (下線部が改定箇所)

(2) 提出された財務諸表に基づいて審査を行い、以下のいずれかに該当する場合は基準F.01を満たさないものとする。なお、決算期変更などにより、事業年度が1年未満または1年を超える場合には、判定方法はFIBが決定するものとする。

① 3期以上連続で当期純損失を計上した場合(ただし、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在の純資産残高がライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度の当期純損失の額の絶対値を上回っている場合は本項目に該当しないものとみなす)。なお、本項目は、2030年のライセンス申請において2027年度決算を1期目として適用を開始するものとする。
② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。なお、本項目は、2025年のライセンス申請において2024年度決算には適用しない。また、2029年のライセンス申請から適用するものとし、2026年から2028年のライセンス申請においては適用しない。さらに、2029年のライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額かまたは当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。

施設基準・例外規定2のスケジュールは不明確

今回のリリースでは、施設基準の「例外規定2」の扱いは明らかにされなかった。例外規定2は、Jリーグ規約第34条に基づき「理想のスタジアム」を将来的に整備することを条件に、入場可能数や大型映像装置の設置を満たさなくても上位ライセンスを得られる仕組みである。

昇格時点では計画の具体性は不要だが、昇格3年目のライセンス申請時には整備計画の提出が義務づけられる。さらに昇格5年目シーズン終了までに着工すれば、例外規定1に切り替えてライセンスを維持できる。

例えば、いわきFCは2023シーズンに例外規定2を適用してJ2に昇格した。2025シーズンは昇格3年目にあたり、整備計画を提出する必要がある。通常のスケジュールでは、5年目にあたる2027シーズン終了までに着工すればよい。

ただし今回は途中でシーズン移行が入る。26特別シーズンを除外してカウントすれば、26/27シーズンが昇格4年目、27/28シーズンが5年目となる。その場合、2028年6月がいわきFCにとって新スタジアム着工の期限となり、その時点で着工の見込みが立たなければ、28/29シーズンのJ2ライセンスは不交付となる可能性がある。公式の明確な見解が待たれる。

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2026/27 シーズンに向けクラブライセンス制度を改定 (2025年9月18日)
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Jリーグがシーズン移行に伴う財務基準の特例措置を発表

日付: 2025年09月18日

最終更新日: 2025年09月21日

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