財務基準の特例措置及び猶予期間を原文で確認 (債務超過の禁止編)

2022年06月07日

財務基準の特例措置及び猶予期間を原文で確認 (債務超過の禁止編)

新型コロナウイルスの影響を受け、2021年シーズン以降のクラブライセンス判定では財務基準に特例措置及び猶予期間が設けられています。この内容のうち債務超過の禁止について、クラブライセンス交付規則の原文で確認していきます。

財務基準における特例措置の概要

  • 特例措置: 2020年度決算、2021年度決算が対象 (2022年シーズン、2023年シーズンのライセンス)
    • 債務超過、3期連続赤字をライセンス交付の判定対象としない
    • 対象年度に新たに債務超過に陥っても判定対象としない
  • 猶予期間: 2021年度決算、2022年度決算が対象 (2024年シーズン、2025年シーズンのライセンス)
    • 債務超過が解消されていなくてもよいが、前年度より債務超過額が増加してはいけない
    • 新たに債務超過に陥ってはいけない
    • 3期連続赤字のカウントをスタートする
  • 特例措置なし: 2024年度以降の決算が対象 (2026年シーズン以降のライセンス)
    • 債務超過が解消されていなければならない
    • 赤字が継続しているクラブは、3期連続赤字に抵触する可能性がある
2022年度以降のクラブライセンス判定における財務基準について (2021年10月26日)
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クラブライセンスについての前提知識

Jリーグクラブライセンスは6月末までに申請し、9月に判定結果が公表されます。

したがって、2022年のライセンス申請では、

  1. 2023年シーズンのJリーグクラブライセンスを申請します。
  2. 交付規則上のライセンスを申請した日の属する事業年度2022年度のことを指します。
  3. 交付規則上のライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度2021年度のことを指します。

クラブライセンス交付規則の原文

3期連続赤字の禁止と債務超過の禁止を定めた財務基準F.01「年次財務諸表(監査済み)」の原文は以下の通りです。

F.01 A等級 年次財務諸表 (監査済み)

中略

3. 判定

判定は、原則としてライセンス申請者の個別財務諸表で行うものとする。ただし、第3項第2号に該当する場合には、この限りではない。

(1) ライセンス申請者が以下のいずれかの状況である場合は、基準F.01は満たさないものとする。

① 提出書類の内容が虚偽であったとき
② 提出期限までに書類を提出せず、かつ、CLAからの提出指示に従わなかったとき

(2) 提出された財務諸表に基づいて審査を行い、以下のいずれかに該当する場合は基準F.01を満たさないものとする。

① 3期以上連続で当期純損失を計上した場合(ただし、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在の純資産残高がライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度の当期純損失の額の絶対値を上回っている場合は本項目に該当しないものとみなす)。なお、本項目は、2025年のライセンス申請において2022年度決算を1期目として適用を開始するものとし、2024年までのライセンス申請においては適用しない。

② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。本項目は、2023年のライセンス申請から適用するものとし、2022年までのライセンス申請においては適用しない。また、2023年および2024年のライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。

③ Jリーグからの指摘に基づき、過年度の決算の修正が必要となった場合において、過年度の決算を修正した結果、前2号に示す事態となった場合

J1クラブライセンス交付規則・運用細則より

第2項の第1号((2)-①)で3期連続赤字の禁止が、第2項の第2号((2)-②)で債務超過の禁止が定義づけられています。

J1クラブライセンス交付規則・運用細則
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債務超過の禁止の原文

債務超過の禁止を定義する第2項第2号の原文は以下の通りです。

② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。本項目は、2023年のライセンス申請から適用するものとし、2022年までのライセンス申請においては適用しない。また、2023年および2024年のライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。

一文目に通常の債務超過の禁止の内容、二文目以降に特例措置及び猶予期間の内容が記述されています。

債務超過の禁止の記述

ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。

ライセンス申請日の前年度の決算で債務超過である場合、財務基準F.01を満たさないということが書いてあります。
2022年のライセンス申請(2023年シーズンのライセンス)の場合は、「ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在」とは2021年度末日、ほとんどのクラブは1月末の決算であるため、2022年1月31日時点における純資産の額(要するに2021年度決算における純資産額)を判定対象としています。

財務基準F.01はA等級であるため、基準に抵触した場合は次シーズンのクラブライセンスが不交付となります。

この次の文に新型コロナウイルスの影響を受けて設けられた特例措置と猶予期間の内容が記述されています。

特例措置の記述

本項目は、2023年のライセンス申請から適用するものとし、2022年までのライセンス申請においては適用しない。

2022年までのライセンス申請、2022年6月に申請する2023年シーズンのクラブライセンス判定までは特例措置として対象外であることが明示されています。
そして、2023年のライセンス申請、つまり2023年6月に申請する2024年シーズンのクラブライセンス判定において債務超過の禁止が再適用されることが明示されています。2023年のライセンス申請で判定の対象となるのは、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日の純資産の金額なので、2022年度決算における純資産額です。

猶予期間の記述

また、2023年および2024年のライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、

ここからは例外として、2023年、2024年のライセンス申請(2024年シーズン、2025年シーズンのライセンス)において債務超過が認められる場合を示しています。すなわち、猶予期間の「債務超過が解消されていなくてもよいが」に当たる項目です。

さらにその前年度末日において既に債務超過であって、

既に債務超過であった場合、要するに、特例措置中に債務超過に陥ってしまった場合を例外の条件としています。これは猶予期間の「新たに債務超過に陥ってはいけない」と同義になります。

ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額か又は当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。

猶予期間の「債務超過が解消されていなくてもよいが、前年度より債務超過額が増加してはいけない」に該当する内容です。この条件を満たす場合は、財務基準F.01には抵触しない、つまり債務超過であってもライセンス判定には影響しないと書いてあります。

債務超過の禁止の特例措置と猶予期間の内容について、交付規則の原文で確認できました。

2022年度以降のクラブライセンス判定における財務基準について (2021年10月26日)
aboutj.jleague.jp

2024年のライセンス申請について

財務基準F.01でライセンス申請年度の前年度の決算を判定の対象としていることを確認しましたが、2022年5月26日に公開された「クラブ経営情報開示資料(先行発表版)」には以下のような記載があります。

2024年度のライセンス判定においては、2023年度が債務超過であっても判定対象としないが、進行期の2024年度が債務超過に陥らないかどうかは判定対象となる

クラブ経営情報開示資料(先行発表/2022.5.26現在) (pdf)
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この記述では「ライセンス申請年度」の決算の見通しが判定対象になると書かれています。これは財務基準F.01ではなく、**財務基準F.06「予算および予算実績、財務状況の見通し」**に対応する文面だと考えられます。

F.06 A等級 予算および予算実績、財務状況の見通し

中略

3. 判定

ライセンス申請者が以下のいずれかの状況である場合は、本基準は満たさないものとする。

① 提出書類の内容が虚偽であったとき
② 提出期限までに書類を提出せず、かつ、CLAからの提出指示に従わなかったとき
③ 審査において、再三の注意にもかかわらず、FIBまたはCLAの指示に従わず、審査に協力しなかったとき
④ 審査の結果、ライセンス申請日の属する事業年度または翌事業年度において、資金不足に陥る可能性または経営の継続が困難となる可能性が高いと判断される場合
⑤ 審査の結果、ライセンス申請者の財務状況がすでに基準F.01に対する運用細則の内容を充足する内容でないと判断される場合

J1クラブライセンス交付規則・運用細則より

ライセンス申請時に提出した資料から、当年度末に債務超過や3期連続赤字になることがほぼ確実と判断された場合は次シーズンのクラブライセンスが交付されない、ということが記載されています。

2021年度現在で債務超過であるクラブは、2025年1月末(2024年度決算)までに債務超過解消が可能なことを合理的に見込める経営計画を、2024年6月末のライセンス申請時までに策定しなければなりません。

J1クラブライセンス交付規則・運用細則
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「基準未充足の取扱い」について

Jリーグが2021年10月26日に発表した「2022年度以降のクラブライセンス判定における財務基準について」には、「基準未充足の取扱い」として「上記の財務基準未充足となった場合には、J1・J2クラブは次シーズン下位リーグ所属、J3クラブは次シーズン勝点10点減とする。」という記載があります。

2022年度以降のクラブライセンス判定における財務基準について (2021年10月26日)
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この内容は2022年版のクラブライセンス交付規則には記載がありません。
おそらく2022年のライセンス申請(2023年シーズンのライセンス)は特例措置の対象であるため、上記の運用がないことが理由だと考えられます。2023年版、すなわち猶予期間中の交付規則において初めて記載されると予想されます。

リンク

2022年度以降のクラブライセンス判定における財務基準について (2021年10月26日)
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J1クラブライセンス交付規則・運用細則
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クラブ経営情報開示資料(先行発表/2022.5.26現在) (pdf)
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財務基準の特例措置及び猶予期間を原文で確認 (債務超過の禁止編)

日付: 2022年06月07日

最終更新日: 2022年06月07日

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