2024年08月06日
大宮アルディージャがNTT東日本からレッドブルへの株式譲渡を発表
大宮アルディージャを運営するエヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社は2024年8月6日、同社が発行する全株式について東日本電信 電話株式会社(NTT東日本)からRed Bull GmbH(レッドブル社)に譲渡されることを発表しました。株式譲渡は2024年9月を予定しています。
この契約により、オーストリアに本社を置くレッドブル社が大宮アルディージャの経営権を100%持つことになります。したがって大宮アルディージャはJリーグ初の外資系クラブということになります。
この度、大宮アルディージャおよび大宮アルディージャVENTUSを運営するエヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社(本社:埼玉県さいたま市代表取締役社長 佐野秀彦)が発行する全株式について、レッドブル・ゲーエムベーハー/Red Bull GmbH(本社:オーストリア連邦共和国 代表者 オリバー・ミンツラフ)と東日本電信電話株式会社(本社:東京都新宿区代表取締役社長 澁谷直樹)が、株式譲渡契約を締結いたしましたのでお知らせいたします。株式譲渡は2024年9月を予定しております。
3社共同のプレスリリースから
今回の発表では大宮アルディージャ、NTT東日本、レッドブル社による3社共同リリースが掲載されています。この中で気になるトピックについて抜粋して掲載していきます。
女子チーム・大宮アルディージャVENTUSについて
レッドブルとしては、Jリーグは非常に競争力のあるサッカーリーグであり、年々国際的な認知度を高めている中で、26年の歴史を積み重ねてきた大宮アルディージャの存在感は特別なものであり、また多くの育成出身選手をトップリーグに輩出してきた実績は、レッドブルサッカーネットワークの一員となるのにふさわしいクラブであると判断しました。WEリーグに参戦している女子チームについても、世界で活躍できる能力をもった選手たちが多く在籍しており、大き な可能性を感じています。
共同リリースには、WEリーグに参加している女子チーム・大宮アルディージャVENTUSへの言及が多く見られます。大宮アルディージャVENTUSは男子トップチームと同じくエヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティが運営しています。
6月にはレッドブルとNTTが合弁会社を設立する可能性が報じられており、運営法人の分離などVENTUSのあり方に何か変化があるのではないか、と懸念されていました。しかしながらレッドブルの経営権取得の方法は株式譲渡となり、共同リリース内では男子トップチームと並列的な扱いでVENTUSについて言及されています。レッドブルによる新体制では今まで通り、あるいは今まで以上に注力されることが期待されます。
名称・クラブアイデンティティ
レッドブルのコミットメントは、ホームタウン・さいたま市で引き続き活動を継続することであり、これまでクラブがステークホルダーと育んできたチーム名やクラブカラーなどをリスペクトし、クラブが積み重ねてきた26年の歴史をベースに積極的に新たな挑戦を行っていくことで「継続と 発展」を示し、クラブ理念の実現と成長循環型クラブとしての取り組みをより加速させて行きます。
過去にレッドブル傘下となったクラブは全て、チーム名、クラブカラー、エンブレムといったクラブアイデンティティがレッドブル仕様に変更されています。大宮アルディージャでも同様に、クラブアイデンティティがレッドブル仕様になることが予想されていました。
共同リリースには具体的な言及はないものの、「これまでクラブがステークホルダーと育んできたチーム名やクラブカラーなどをリスペクト」することが記されています。
日本経済新聞では「「RB大宮アルディージャ」に変更する見通し」と、RBライプツィヒ方式によるクラブ名変更が既定路線となっていることが報じられています。
同日、両社が正式契約を結んだ。クラブ名はJリーグ理事会の承認を経て「RB大宮アルディージャ」に変更する見通し。クラブカラーのオレンジ色は継続し、引き続きさいたま市を拠点に活動する。
現在のクラブ運営会社の法人名は「エヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社」ですが、NTT東日本が経営から完全に撤退することから社号変更が行われることは確実だと思われます。
今後のNTT東日本の関わり方
■NTT東日本 代表取締役社長 澁谷 直樹 コメント
(中略)
当社はパートナーとして引き続きクラブを応援するとともに、NTTグループのアセットを活用して地域におけるクラブの発展を支えることで、より良い地域社会の実現に貢献していく所存です。今後とも大宮アルディージャへの応援をよろしくお願いいたします。
NTT東日本は大宮アルディージャの経営から手を引くことになりますが、共同リリースでは、既報通り今後もパートナー(スポンサー)として継続的に関わっていくことが明言されています。
NTTグループは2023年12月、ホームスタジアム・NACK5スタジアム大宮の指定管理者に選定されています。契約期間は2024年4月から2028年3月までの5年間です。
「NTTグループのアセットを活用して」とあるように、しばらくはレッドブル社との共創関係を築きながらクラブと関わっていくと思われます。
株式譲渡の価格
株式譲渡の価格は非公表ですが、日本経済新聞の谷口誠記者の取材によると取得価格は約3億円だそうです。これは大宮アルディージャの2023年度決算における純資産額3億0500万円とほぼ一致する価格であるため、契約時点での純資産額を基準としておおよそ額面通りに価格が算定されていると考えられます。
レッドブルの #大宮アルディージャ 買収。複数の関係者によると株100%の取得額は3億円程度だそう。過去の買収例の取得株式と金額は以下です。
— 谷口誠(NIKKEI) MakotoTaniguchi (@MktTaniguchi) August 6, 2024
J1 鹿島アントラーズ(メルカリ)61.6%-16億
J1 FC東京(ミクシィ)51.3%-10.5億
J2 FC町田ゼルビア(サイバーエージェント) 80%-11.48億https://t.co/kpJBujMELJ
#大宮アルディージャ の買収額が約3億円だった根拠の1つは、クラブの「純資産」だそう。預貯金や不動産等の「資産」から、借金等の「負債」を引いた額で、昨年度決算で3億円でした。「Jクラブの買収額は欧州の基準より低く計算されている」と懸念を示すJリーグ関係者もいます。https://t.co/kpJBujMELJ
— 谷口誠(NIKKEI) MakotoTaniguchi (@MktTaniguchi) August 7, 2024
なお一つ目のポストで言及されている他のJクラブの取得価格ですが、鹿島アントラーズはメルカリ-日本製鉄間の株式譲渡契約、FC東京とFC町田ゼルビアはそれぞれミクシィ、サイバーエージェントによる第三者割当増資です。比較対象としては鹿島アントラーズの事例が適当でしょう。
Jクラブの市場価値と投資
Jクラブの市場価値については、今年1月にinterfmで放送された「Investor's Sunday」で前Jリーグ専務理事、現東京大学特任教授、ファジアーノ岡山オーナーの木村正明氏が語った内容が一聴に値します。AuDeeで視聴可能なのでこち らにリンクを掲載します。
大意を端的にまとめると以下のような内容です。
- 日本ではプロスポーツクラブの企業価値を数値化する基準が確立していないため、適切な企業価値を評価するための指針を日本に導入する研究・取り組みを行なっている。
- 欧米では売上高、保有選手の価値、ファン・サポーター数、スタジアムや練習施設の状況などを反映した企業価値が算出されており、一般的に年間売上高より高い価格で評価されている。
- 欧米ではプロスポーツクラブは「投資」の対象となっており、株式を取得した企業がクラブの企業価値を高めて他の企業に売却する(キャピタルゲインを得る)、ということが活発に行われている。
- 売上高、保有選手の価値、ファン・サポーター数、スタジアムや練習施設の状況などを企業価値に反映することは、欧州で行われているようなプロスポーツクラブの価値を高める「投資」の呼び水となる。
(2024/08/08追記) この内容は木村正明氏が所属する東京大学スポーツの価値学 (明治安田生命) 寄付研究部門による研究成果として論文が発表されています。
以上のことを踏まえると、日本ではプロスポーツクラブの企業価値を評価する仕組みが確立していないこと、また恐らく売り手側のNTT東日本に「高く売る」という動機がなかったことが、今回の取引価格が純資産額と同程度の3億円になった理由だと考えられます。
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