2023年02月05日
Jリーグが2023年シーズン以降の配分金の方式を発表
Jリーグは2023年1月31日、2023年度以降の配分金についてのプレスリリースを発表しました。プレスリリースを要約すると以下の内容になります。
- 均等配分金の減額
- 降格救済配分金の2023年度限りでの廃止
- 理念強化配分金の2024年度以降の新方式
Jリーグは昨年11月発表の「Jリーグ新たな成長戦略とリーグ組織の構造改革について」および12月発行の「J.LEAGUE Season Review 2022」で、配分金構造の見直しを宣言していました。今回の発表はその内容を具体的に記したものです。
前提
配分金とは
Jリーグ配分金とは公益財団法人日本プロサッカーリーグが放映権料と協賛金収益を主な原資として、Jリーグ会員である各クラブに配分する資金です。配分金はクラブの所属カテゴリに応じて一定額が支給される均等配分金と、リーグ成績やその他の指標に応じて金額が決まる結果配分(傾斜配分)と大きく二種類に分類できます。
Jリーグが公開しているJクラブ決算一覧によると、2021年度の配分金の総額は137億4100万円です。うちJ1クラブが97億7700万円(全体の71%、クラブ平均4.89億円)、J2クラブが35億2400万円(全体の26%、クラブ平均1.60億円)、J3クラブが4億4000万円(全体の3%、クラブ平均2900万円)。Jクラブの営業収益における配分金の比率はJ1で平均11.8%、J2で平均10.6%、J3で平均5.5%です。
2022年度のJクラブ決算は現時点では公開されていませんが、J1クラブ数が20から18に戻ったこと、理念強化配分金の対象シーズンの減少、降格救済配分金の対象クラブの増加などから、配分金全体に占めるJ1クラブへの配分金比率は下がることが予想されます。筆者の試算ではJ1、J2、J3の配分金比率は63:30:7程度と推計しています。
配分金構造の見直し
Jリーグは2022年11月発表の「Jリーグ新たな成長戦略とリーグ組織の構造改革について」の中で『配分金構造の見直し』として以下の方針を示していました。
「成果創出を後押しし、高みへの挑戦を促す新たな配分ルールへ」
- カテゴリー間の配分比率の見直し
目安としてJ1:J2の配分金比率を5~6倍程度(現状約2倍)までJ1への配分割合を段階的に高めていくことを目指す - 同一カテゴリー内の配分方法の見直し
均等配分中心から競技成績やファン増加等の成果に応じた配分(結果配分)中心へ段階的にシフトする
2022年12月13日にJリーグは、公益社団法人日本プロサッカーリーグの2023年度予算を発表しました。2023年度予算では「クラブへの配分金」が前年比で総額37億4700万円減額しています。
2023年度以降の配分金について
さて、今回のプレスリリースでは「均等配分金の減額」「降格救済配分金の2023年度限りでの廃止」「理念強化配分金の2024年度以降の新方式」とその具体的な金額が発表されました。
均等配分金の減額
カテゴリ | 2022 | 2023 | 差額 |
---|---|---|---|
J1 | 3.5億円 | 2.5億円 | 1.0億円 |
J2 | 1.5億円 | 1.0億円 | 0.5億円 |
J3 | 0.3億円 | 0.2億円 | 0.1億円 |
2022年度までの均等配分金はJ1クラブが3.5億円、J2クラブが1.5億円、J3クラブが3000万円でした。今回発表された2023年の均等配分金はJ1クラブが2.5億円、J2クラブが1.0億円、J3クラブが2000万円と、全カテゴリで減額しています。報道によると今後さらなる減額の可能性もあり得るようです。
野々村チェアマンによれば「移行期でもあるので若干多めに設定している。もっと下がる可能性はある」といい、今後はさらなる減額も想定しているようだ。
J1、J2、J3全体の均等配分金の総額は前年比30億4000万円の減額になります。なお均等配分金の減額に伴い2023年度のJクラブ決算はクラブライセンス制度・財務基準の特例措置の対象となり、「新たに債務超過に陥ること」「債務超過額の増加」が認められます。
降格救済配分金の2023年度限りでの廃止
降格救済配分金はJ1からJ2、J2からJ3へ降格したクラブに支給される配分金です。2018年度から支給が始まりました。この制度では降格クラブには前所属カテゴリの均等配分金の80%が保障されます。前所属カテゴリの均等配分金の80%と降格後所属カテゴリの均等配分金の差額が降格救済配分金になります。
当初は降格後1年目のシーズンを対象に支給していましたが、新型コロナウイルスの影響を考慮し、2021年シーズンの成績に基づく降格救済配分金は降格後2年目のシーズンである2023年度まで支給することが決定しています(1年目は80%、2年目は60%)。
今回のプレスリリースでは2023年度の支給を最後に降格救済配分金を廃止することが発表されました。
また、2023年度の降格救済配分金は、減額前の2022年度の均等配分金ではなく減額後の2023年度の均等配分金を基準に 算出することが示されました。
2023年度に支給される降格救済配分金は以下の通りです。
降格年 | カテゴリ | 金額 | 対象クラブ |
---|---|---|---|
2021 | J1→J2 | 0.5億円 | 徳島、大分、仙台 |
2021 | J2→J3 | 0.4億円 | 相模原、愛媛、北九州、松本 |
2022 | J1→J2 | 1.0億円 | 清水、磐田 |
2022 | J2→J3 | 0.6億円 | 琉球、岩手 |
理念強化配分金の2024年度以降の新方式
理念強化配分金は前年シーズンJ1上位クラブを対象に支給される配分金です。2018年に支給が始まりました。今までの方式ではJ1上位4クラブを対象に3年間で総額27.8億円、うち優勝クラブには3年間で総額15.5億円という多額の資金が支給されていました。従来の賞金が当年度の収入に計上されるのに対して、理念強化配分金は次年度以降数年間の収入に計上されるため、選手補強や設備投資などに活用しやすい利点があります。
新型コロナウイルスの影響を受け、2020年シーズン以降の成績に基づく理念強化配分金の支給は停止しています。誤解されがちですが、2019年シーズン以前の成績に基づく理念強化配分金は2020年度から2022年度の間も支給されています。
2023年度の理念強化配分金は上記の理由から支給対象となるシーズンがなくなるため、一旦停止した状態になります。
2024年度以降の理念強化配分金については、Jリーグが2022年12月に発行した「J.LEAGUE Season Review 2022」の中で新方式で再開することを示唆されていましたが、今回のプレスリリースでその具体的な配分方法と金額が公表されました。
新方式ではこれ までのJ1リーグの成績に基づく「競技順位」配分に加え、DAZN視聴者数などのファンベース数に基づく「人気順位」配分が新設されています。
「競技順位」配分
成績 | 1年目 | 2年目 | 総額 |
---|---|---|---|
優勝 | 2.5億円 | 2.5億円 | 5.0億円 |
2位 | 1.8億円 | 1.8億円 | 3.6億円 |
3位 | 1.5億円 | 0.7億円 | 2.2億円 |
4位 | 1.5億円 | - | 1.5億円 |
5位 | 1.2億円 | - | 1.2億円 |
6位 | 0.9億円 | - | 0.9億円 |
7位 | 0.7億円 | - | 0.7億円 |
8位 | 0.6億円 | - | 0.6億円 |
9位 | 0.5億円 | - | 0.5億円 |
以前の方式では前年J1上位4クラブに対して次年度以降の最大3年間、総額27.8億円が支給されていましたが、新方式の「競技順位」配分ではJ1上位9クラブが対象になりました。支給年度は最大2年間、総額16.2億円が支給されます。
野々村芳和チェアマンは17〜19年にかけての制度について「トップを引っ張ってくれるクラブが出てくることになったか、費用が一体どういうものに使われたかを精査した上で、リーグの評価としてあのやり方ではなかったという結論」と説明。支給対象を広げたことについて「いまのJリーグは20番目、25番目のクラブと上のクラブとの差がなくなっているなか、トップ10に入るようなクラブを目指すモチベーションになるような傾斜にしたほうがいい」と背景を語った。
「人気順位」配分
ファンベース数 | 支給額 |
---|---|
1位 | 1.70億円 |
2位 | 1.20億円 |
3位 | 0.70億円 |
4位 | 0.50億円 |
5位 | 0.40億円 |
6位 | 0.30億円 |
7位 | 0.25億円 |
8位 | 0.20億円 |
9位 | 0.15億円 |
また理念強化配分金の新方式には「人気順位」配分が新設されました。DAZN視聴者数などを基に決定したファンベース数の上位9クラブに対して総額5.4億円が支給されます。
新方式による理念強化配分金は2023年シーズン以降の成績を対象に2024年度から支給が始まります。
その他の配分金
ACLサポート配分金について、2023年度は直近2年間と同様に各クラブ1 億円の支給、2024年度以降は理念強化配分金の再開を理由に、出場クラブに支給される総額が0.5億円になることが発表されました。ACLサポート配分金は2021年度から前年成績に基づく理念強化配分金が停止されたことで各クラブ1億円の支給となった経緯があります。したがって今回発表された形式ではコロナ禍による特別措置から以前の配分に戻った形と言えます。
またDAZN視聴者数などを基にしたファン指標配分金は前年比3.4億円増額の総額13.4億円となることが発表されています。
配分金の総額
先述の通り、Jリーグの2023年度予算では「クラブへの配分金」を総額37億4700万円減額しています。今回開示された金額から2022年度と2023年度の各種配分金の金額を計算すると差分は以下のようになり、その合計は36.3億円とJリーグの配分金予算の減少分と概ね近い値になります。
- 均等配分金 30.4億円
- 理念強化配分金 7.0億円
- 降格救済配分金 2.5億円
- リーグ事業協力費 0.2億円
- ファン指標配分金 3.4億円
また2024年度以降の配分金を見ていくと、均等配分金はJ1・J2のクラブ変更により2023年度比で3億円増加します。理念強化配分金は2024年度に16.6億円支給、2025年度以降は年間21.6億円の支給となるため、2年間で21.6億円の増加。降格救済配分金は廃止になるので2023年度比で6.3億円が減少。ACLサポート配分金は方式変更により2023年度比で3.5億円減少。
これらを総合すると、(他の配分金額が変わらないという前提で)2024年度の配分金総額は2023年度比で約10億円増額、2025年度は2023年度比で約15億円増額する計算になります。ただしこれは2019年度〜2022年度の配分金総額と比べて20億円近く低い水準です。
代替となる施策
Jリーグは全国30地域(45都道府県)の地上波で放送されるサッカー番組「KICK OFF! 」への制作協力などの「ローカル露出戦略投資」や、Jリーグによるクラブへの人材サポートへの投資を行なうことを発表しています。これが実質的に配分金額の減少を代替する施策となります。
CHAIRMAN INTERVIEW
リーグ側は、これまでクラブ経営に関するサポートはある程度実施してきましたが、デジタルマーケティング、選手育成、社会連携など、リーグ側が主体に環境を整備してきた専門分野も加えながら、クラブとの対 話を通じて、そのクラブの必要としている成長を直接サポートしていきます。
これまで数名でやっていたクラブのサポート部門を2023年から20〜30人ほどに拡大し、チームとして機動的にクラブと向き合っていきます。さらに、それらのサポートの効果を高めるため、定期的にクラブを回り、経営課題から日々の現場の取り組みまで細やかに連携ができるよう、カテゴリーダイレクターという役割を新設し、クラブの社長経験のある方を中心に担っていただく予定です。
総括
ここからは私見です。
今回の発表のポイントは「配分金総額の減少」と「DAZN視聴者数の重視」の2点と考えています。
配分金総額の減少
JリーグとDAZN Groupは2020年8月、2016年に締結した10年契約2,100億円(年平均210億円)の放映権契約の内容を、新型コロナウイルスの影響を理由に12年契約2,239億円(最低保証金額・年平均187億円)に変更しています。
理念強化配分金が新方式でフルに支給される2025年度以降であっても、配分金総額が2019年度から2022年度と比べて20億円近く低い水準になるのは、この契約変更が理由であると考えます。
DAZN視 聴者数の重視
新たな方式の特徴としては、DAZN視聴者数を特に重視している点が挙げられます。DAZN視聴者数を反映した配分金には既にファン指標配分金が存在していますが、更に理念強化配分金の中に「人気」配分を新設しています。ACLサポート配分金は2024年度以降、理念強化配分金の「競技順位」配分との二重性を考慮して減額する一方で、DAZN視聴者数による結果配分は二重することになります。
その結果、2024年度以降の配分金では「人気」指標による結果配分は(ファン指標配分金が2024年度以降も同額であれば)総額18.8億円と、競技面の結果配分の総額16.7億円を上回ります。
先述のDAZNとの新たな放映権契約2,239億円/12年は最低保証金額です。
JリーグとしてはDAZN視聴者数を重視する配分金構造にすることで、各クラブにDAZN加入者増加の努力を促し、今後の放映権料増額を期待する狙いがあると考えられます。