2024年02月23日
財務基準未充足による「下位リーグへの降格」はどのように実装されるか
2024年版のJリーグクラブライセンス交付規則がJリーグコーポレートサイトで公開されました。コロナ禍に突入した2020年度以降、クラブ ライセンス制度の財務基準には債務超過を認める特例措置が設けられていましたが、2024年のライセンス判定では財務基準未充足による下位リーグへの降格が始まります。
この記事では財務基準の特例措置の再確認と、財務基準未充足による制裁の交付規則における具体的な実装方法の検証を行います。
特例措置のおさらい
新型コロナウイルスの影響により、2020年度以降クラブライセンス制度の財務基準には時限的に債務超過を認める特例措置が設けられています。この特例には「新たに債務超過に陥ることを認める」特例措置と、「債務超過であってもいいが債務超過額が増加しては行けない」猶予期間という2つの基準が存在しています。当初は2020年度、2021年度決算を特例措置の対象、2022年度、2023年度決算を猶予期間の対象としていましたが、2023年の均等配分金の減額の影響を鑑み、2023年度決算を特例措置に変更、2024年度決算が新たに猶予期間の対象となっています。したがって2025年度決算までに全てのクラブが債務超過を解消する必要があります。
2020年度決算 | 2021年度決算 | 2022年度決算 | 2023年度決算 | 2024年度決算 | 2025年度決算 | 2026年度決算 |
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特例措置 | 猶予期間(*) | 特例措置 | 猶予期間 | 特例措置なし | ||
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2023年1月1日改正
特例措置
2020年度、2021年度、2023年度決算が対象
- 債務超過、3期連続赤字をライセンス交付の判定対象としない
- 対象年度に新たに債務超過に陥っても判定対象としない
猶予期間
2022年度、2024年度決算が対象
- 債務超過が解消されていなくてもよいが、前年度より債務超過額が増加してはいけない
- 新たに債務超過に陥ってはいけない
- 3期連続赤字のカウントをスタートする(2024年度から)
2025シーズンのクラブライセンス審査では
2024年に実施する2025シーズンのクラブライセンス審査では、確定している2023年度決算(F.01)と進行中の2024年度決算の見込み(F.06)が審査の対象となりますが、2023年度決算は特例措置の対象であるため、2024年度決算の見込みが猶予期間の基準を満たすかどうかが審査の内容となります。
F.01 年次財務諸表(監査済み) (抜粋)
提出された財務諸表に基づいて審査を行い、以下のいずれかに該当する場合は基準F.01を満たさないものとする。
① 3 期以上連続で当期純損失を計上した場合(ただし、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在の純資産残高がライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度の当期純損失の額の絶対値を上回っている場合は本項目に該当しないものとみなす)。なお、本項目は、2027年のライセンス申請において2024年度決算を1期目として適用を開始するものとし、2026年までのライセンス申請においては適用しない。
② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。本項目は、2026年のライセンス申請から適用するものとし、2025年までのライセンス 申請においては適用しない。また、2025年までのライセンス申請においては、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過であったとしても、さらにその前年度末日において既に債務超過であって、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日において債務超過額がその前年度の債務超過額と同額かまたは当該債務超過額より減少しているときは、本項目に該当しないものとみなす。
F.06 予算および予算実績、財務状況の見通し (抜粋)
ライセンス申請者が以下のいずれかの状況である場合は 、本基準は満たさないものとする。
⑤ 審査の結果、ライセンス申請者の財務状況がすでに基準F.01に対する運用細則の内容を充足する内容でないと判断される場合
したがって2024年に実施する2025シーズンのクラブライセンス審査では、以下の2通りの場合で財務基準F.06未充足となります。
- 2023年度決算で債務超過ではないクラブが、進行中の2024年度決算で新たに債務超過に陥ると判断された場合 (債務超過にならないことを合理的に説明できない場合)
- 2023年度決算で債務超過のクラブが、進行中の2024年度決算で債務超過額が増加すると判断された場合 (債務超過額が減少することを合理的に説明できない場合)
では上記の基準未充足の場合、ライセンス判定ではどのような扱いになるでしょうか。
財務基準未充足の場合の取扱い
Jリーグは2021年10 月に、財務基準の特例措置に関する基準が未充足となった場合の取扱いとして「J1・J2クラブは次シーズン下位リーグ所属」「J3クラブは次シーズン勝点10点減」という内容を発表しています。
■基準未充足となった場合の取扱い
上記の財務基準未充足となった場合には、J1・J2クラブは次シーズン下位リーグ所属、J3クラブは次シーズン勝点10点減とする。
この内容が効力を持つには2024年版のクラブライセンス交付規則に根拠となる規定を記載しなければなりません。というのも現在の交付規則では上記財務基準はA等級と定義されているため、未充足の場合はクラブライセンスは不交付となり、1つ下のカテゴリへの降格という運用ができないからです。
基準未充足による制裁はどのように実装されたか
では2024版の交付規則で基準未充足による制裁はどのように実装されたでしょうか。
以前の記事では「B等級違反による制裁」という形を予想しましたが、この予想は外れたようです。2024年版においても債務超過の禁止を定めた財務基準F.01及びF.06は今まで同様A等級のままであり、クラブライセンス交付に必須となる基準として存在しています。
ではどのように実装されたでしょうか。J1・J2クラブライセンス交付規則第21条「J1・J2ライセンスの付与」の第4項が根拠となると考えられます。ここにはJ2ライセンスの場合、基準を充足しない場合でもリーグの安定開催に支障がないと認められる場合はJリーグ理事会がライセンスを付与することができる。その場合、Jリーグ規約で定めた制裁が科される、という内容が記されています(細かい話をすると、一文目に関しては既に昨年のJ2クラブライセンス交付規則に同様の記載があり、2024年版では「かかる場合〜」以下制裁に関する文章が新たに追加されています)。
となると、以下のように考えることができます。
J1クラブが前述の財務基準(A等級)を未充足になった場合、翌年のJ1ライセンスは付与されない。したがって次シーズンにはJ1リーグに参加できない。しかしながら基準未充足の場合でもJ2ライセンスは制裁付きで認められることから、実質的に「下位リーグへの降格」という扱いになる。
J2クラブの場合は同様にJ2ライセンスは制裁付きで認められるが、制裁として「下位リーグへの降格」が科される。
このようなロジックになると推測できます。
第21条〔J1・J2ライセンス等の付与 / 譲渡〕
- ライセンス申請者が第 8 章から第 12 章に定める各ライセンス基準を充足しているか否かの判定は、当該ライセンス基準において別段の定めがない限り、ライセンス申請書類の提出締切日(以下「ライセンス申請締切日」という)を基準日として行う。
- ライセンス申請者が、第 8 章から第 12 章に定める各ライセンス基準のうちJ1に関する A 等級のものをすべて充足する場合は、J1ライセンスが付与されるものとする。
- 前項に定める場合を除き、ライセンス申請者が、第 8 章から第 12 章に定める各ライセンス基準のうちJ2に関する A 等級のものをすべて充足する場合は、J2ライセンスが付与されるものとする。
- ライセンス申請者が、第 8 章から第 12 章に定める各基準のうち A 等級のものをいずれか1つでも充足しない場合は、J1・J2ライセンスは付与されないものとする。J2ライセンスについては、いずれかを充足しない場合であっても、対象シーズンのJ2リーグの安定開催に支障を及ぼさないと認められる場合には、Jリーグ理事会がJ2ライセンスを付与することができる。かかる場合、Jリーグ理事会が制裁を科すものとし、制裁の種類はJリーグ規約第 142 条第 1 項各号を準用するものとする。
- AFCライセンスについては、原則として第 2 項に基づきJ1ライセンスが付与されるが、第 7 章の定めに従うものとする。
- ライセンス申請者および/またはライセンシーは、ライセンス申請者たる地位、J1・J2ライセンス等を第三者に譲渡することができないものとする。
第142条〔懲罰の種類〕第1項
チェアマンが、第 133 条第 2 号に定める違反行為をしたJクラブに対して科すことができる懲罰の種類は次のとおりとし、これらの懲罰を併科することができる。
- けん責 始末書をとり、将来を戒める
- 罰金 1 件につき 1 億円以下の罰金を科す
- 中立地での試合の開催 試合を中立地で開催させる
- 一部観客席の閉鎖 一部の観客席を閉鎖し、そこには観客を入場させない
- 無観客試合の開催 入場者のいない試合を開催させる
- 試合の没収 得点を 0 対 3 の敗戦として、試合を没収する
- 勝点減 リーグ戦の勝点を 1 件につき15点を限度として減ずる
- 出場権剥奪 リーグカップ戦における違反行為に対する懲罰として次年度のリーグカップ戦への出場権を剥奪する
- 下位リーグへの降格 所属するリーグより 1 つ以上下位のリーグに降格させる
- 除名 Jリーグから除名する(ただし、Jリーグ定款第 9 条の手続きを経るものとする)
同様にJ3クラブライセンス交付規則においても、基準未充足の場合、制裁付きでJ3ライセンスが交付される条文が存在しています。こちらは財務基準F.01及びF.06が未充足(つまり新たに債務超過化または債務超過額の増加)の場合、翌シーズンに勝点減(最大10点)を適用することが明文化されています。
第5条〔審査方法〕
- 審査は第 7 条から第 11 条までに定める各基準をすべて充足した場合に合格したものとする。審査に合格したJ3ライセンス申請クラブには、対象シーズンのJ3ライセンスが交付される。
- 前項の規定にかかわらず、理事会は、第 7 条から第 11 条までに定める基準のいずれかを充足しない場合であっても、対象シーズンのJ3リーグの安定開催に支障を及ぼさないと認められる場合には、J3ライセンスを交付することができる。かかる場合、理事会が制裁を科すものとし、制裁の種類はJリーグ規約第 142 条第1項各号を準用するものとする。ただし、財務基準 F.01 第3項および財務基準 F.06 第 3 項に定める基準が未充足であったJ3ライセンス申請クラブに対する制裁は、原則として、対象シーズンの勝点減(最大 10 点)とする。
- 審査の過程で、または審査の結果を踏まえて、Jリーグは、第 7 条から第 11 条に定める基準に関して、クラブに通知のうえ、改善に向けた指導を行うことができる。
と、ここまで書いたところで過去のJ3クラブライセンス制度交付規則を閲覧したところ、コロナ禍の特例措置が始まる以前からこの条文が存在していたことが判明しました。つまりJ3クラブはコロナ禍前から債務超過であっても勝点減という制裁付きでJ3クラブライセンスが認められていた、ということになります。この内容は今まで気付いていませんでした。
まとめ
2025シーズンのクラブライセンス審査において、各カテゴリのクラブが財務基準F.06を未充足となった場合、「下位リーグへの降格」「勝点10点減」という制裁は以下のようなロジックで運用されると考えられます。
- J1所属クラブの場合: J1クラブライセンスは交付されない。したがって2025シーズンはJ2またはJ3所属。(実質的に「下位リーグへの降格」という制裁が科される)
- J2所属クラブの場合: J2クラブライセンスは制裁付きで交付されるが、「下位リーグへの降格」という制裁によって2025シーズンはJ3所属。
- J3所属クラブの場合: J3クラブライセンスは制裁付きで交付されるが、翌シーズン勝点最大10点減という制裁が科される。
以上、2024年版のクラブライセンス交付規則から財務基準未充足による制裁の具体的な実装方法を検証してきました。この解釈の正しさについては確証がないのでご了承ください。